【10月14日 AFP】米連邦準備制度理事会(Federal Reserve BoardFRB)への米マサチューセッツ工科大(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)のピーター・ダイアモンド(Peter Diamond)教授(70)の指名は、たった1人の共和党議員により阻止された――しかし、最後に笑ったのは、2010年のノーベル経済学賞を受賞したダイアモンド教授だった。

 ベン・バーナンキ(Ben Bernanke)FRB議長が学生時代に教わったこともあるダイアモンド教授は、研究仲間の米ノースウエスタン大(Northwestern University)のデール・モーテンセン(Dale Mortensen)教授、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of EconomicsLSE)のクリストファー・ピサリデス(Christopher Pissarides)教授とともに「労働市場のミスマッチの分析」を評価され、ノーベル経済学賞を受賞した。

 スウェーデン王立科学アカデミー(Royal Swedish Academy of Sciences)は、3人の考案したDMP(Diamond-Mortensen-Pissarides)モデルが、求職者と求人側の「最適のマッチングを発見すること」が非常にやっかいであることを示し、景気回復後も失業率が変わりにくい状況を説明したと評価した。

 ポスト金融危機の財政赤字に対する批判と失業率増加の状況下で、政府に社会保障政策と労働市場政策の再考を求める圧力が世界的に高まっていることに対し、ことしのノーベル経済学賞は真っ向から対立する選択をしたといえる。

 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領がことし初頭、政策金利の設定を通じて経済活動やインフレ率に影響を及ぼすFRBの理事7人のうちの1人、ならびに連邦公開市場委員会(FOMCFederal Open Market Committee)にダイアモンド氏を指名したことには、こういった労働市場の分析が主要な要因となっていたとみられる。

■FRB理事就任の可能性は

 ダイアモンド氏は、1963年にMTIで博士号(経済学)を取得。その後40年間にわたって同大の教授を務めてきた。労働市場の世界的な権威とされていたが、ことし8月に共和党のリチャード・シェルビー(Richard Shelby)上院議員(アラバマ州選出)にFRB理事への就任を阻止された。

 当時シェルビー議員は米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)に対し「ダイアモンド教授の経歴が、金融政策に適しているかどうかは明らかではなく、特に近年FRBが直面している困難の中ではなおさらだ」と述べていた。

 当時の困難というのは、数世代ぶりの最悪の景気後退からよろよろと立ち直りつつある中で経済を持ち上げることだった――つまり、まさにダイアモンド氏こそ政権が必要としていた人材だ、とノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)氏は訴えている。

 11日のブログで、クルーグマン氏はダイアモンド氏の受賞を「ふさわしい栄誉」と称え、「経済学賞は、市場のミスマッチについての仕事を評価したもので、これらの仕事は極めて重要なものだ。しかし、ピーター(・ダイアモンド)氏は深い思想家であり、ほかにもっともっと多くのことを成し遂げている」と賛辞を送った。

 9.6%の高い失業率を低下させようと取り組む米ホワイトハウス(White House)は、ダイアモンド氏のFRB理事就任をいまも望んでおり、オバマ大統領は9月13日にもダイアモンド氏を再び指名していた。

■社会保障制度改革に提言

 ダイアモンド氏は、米国の連邦社会保障制度、ソーシャル・セキュリティーについても重要な研究を行っている。共和党議員がソーシャル・セキュリティーの財政赤字解消策として民営化を求めるなど、ソーシャル・セキュリティーは近年、米国の政治的、経済的な話題の中心となってきた。

 ダイアモンド氏は2004年、後にオバマ政権の初代行政管理予算局(OMB)局長となったピーター・オルスザグ(Peter Orszag)氏との共著で『Saving Social Security: A Balanced Approach(ソーシャル・セキュリティーを救う:バランスのとれたアプローチ)』を発表。

 連邦政府支出としてソーシャル・セキュリティーを救出することは可能だと論じ、米議会予算局(Congressional Budget OfficeCBO)は当時、ダイアモンド=オルスザク案ならば恒久的に財源を確保できるが、増税になるだろうとの見解を示していた。(c)AFP/Michael Mathes