【8月5日 AFP】大都市ニューヨーク(New York)でこの夏、前代未聞の大量のナンキンムシ(トコジラミ、bedbug)がアパートやオフィスにはびこり、ついには衣料品店を大襲撃している。
 
 この「小さな吸血鬼」たちは、高級ランジェリー店「ヴィクトリアズ・シークレット(Victoria's Secret)」のアッパー・イースト・サイド店にまで潜り込んだ。市当局は50万ドル(約4300万円)の対策費を支出し、異常発生を警戒している。インターネット上には、「ナンキンムシTV」(www.bedbugcentral.com)まで登場する騒ぎだ。

 6月までの1年間で市当局に寄せられたナンキンムシに関する苦情は、前年の2万6000件から3万1719件に増えた。過去5年間では約20倍も増加している。

 虫の害について一言でも触れれば、不動産賃貸の取引はご破算、少なくとも害虫退治サービスに多額の出費を強いられるため、普段は誰も話題にしたがらない。しかし、この7月に入って大発生の報告が相次ぎ、沈黙では済ませられない状況になってきた。

■マンハッタン高級衣料店の商品から続々
 
 まず、10代の若者や観光客に人気のカジュアル系ブランド「ホリスター(Hollister)」のソーホー( SoHo)の旗艦店が、販売した衣料品からナンキンムシが見つかったせいで閉店に追い込まれた。続いて、「アバクロンビー&フィッチ(Abercrombie&Fitch)」のマンハッタンのアウトレットがナンキンムシにとりつかれ、この2つのブランドを所有するマイケル・ジェフリーズ(Michael Jeffries)CEOはマイケル・ブルームバーグ(Michael Bloomberg)市長に対策の陣頭指揮を嘆願する手紙を送った。

 ナンキンムシはさらにブルックリン(Brooklyn)の病院の救急救命室を大混乱に陥れ、極めつけに7月中旬、ヴィクトリアズ・シークレットのアウトレットでランジェリーの上をはいまわり、同店を一時閉鎖に追い込んだ。

■生命力強く、あっという間に繁殖

 米粒より少々大きい程度のナンキンムシだが生命力は強く、血を吸わなくても数週間を生き延びることができる。寿命は平均10か月、その間にメスは約350個の卵を生む。

 夜間に寝ている人を刺し、吸血されるとかゆみが生じるため、眠れなくなることも多い。 

 米国では第2時世界大戦後にほぼ根絶されたが、効果は絶大ながら人体にも有害として殺虫剤のDDTが禁止されたり、海外旅行が普及したことなどで90年代以降すっかり復活を遂げ、いまや家庭の寝室に入り込む始末だ。

 ニューヨーカーにとって、自分の住む建物がナンキンムシに汚染されているのを知ることは、悪い病気の宣告にも等しい恐怖だ。ロウアー・マンハッタン(Lower Manhattan)に住むある女性は、インターネットのナンキンムシ発生情報サイトに自分のアパートが掲載されていることをレポーターに知らされ、悲鳴を上げた。このアパートはほんの3か月前には安全な場所だったという。いまや、ナンキンムシのいない建物を探すほうが難しいという意見もある。

■「ナンキンムシ捜索犬、派遣します」

 そんな中、イヌを使ってナンキンムシを探させる駆除サービスの人気が高まっている。ベッドや食器棚、パソコンやラジオ、目覚まし時計などの電化製品の中にまで入り込んだナンキンムシを探すのに、鼻が効く猟犬種は有効と考えられている。

 駆除サービス「ベッドバグ・インスペクターズ(Bedbug Inspectors)」を経営するジェレミー・エッカー(Jeremy Ecker)氏は、「麻薬や爆発物の探知犬や、遺体の捜索犬と同じです。1回匂いをかがせれば、生きているナンキンムシを見つけることができるんです」

 イヌ1匹を連れた訪問は、税抜き価格で1回350ドル(約3万円)。

 これを高いと思う人はぜひ、エッカー氏の払っている犠牲を考慮してほしい。イヌたちのトレーニングは毎日必要で、そのためには手元にナンキンムシを置いておかねばならない。つまり飼育するための「生血」が必要だ。上腕に置いたナンキンムシに自分の血を吸わせながら、エッカー氏は「えさをやって生かしておかないとならないからね」と平然とした顔で説明すると、ガラスの小瓶に虫を戻してしっかりふたをした。(c)AFP/Sebastian Smith

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