【7月16日 AFP】鋼鉄2万6500トンを使用し、築70年近くになるにもかかわらず1日10万台の通行量にも、大嵐にも、びくともしない――。それほど頑丈なインド・コルカタ(Kolkata)を象徴する橋が今、「人間が吐くつば」により崩落の危機にさらされている。

 コルカタの玄関口にあるハウラー橋(Howrah Bridge)は、西ベンガル(West Bengal)州を流れるフーグリー川(Hooghly River)にかかり、「世界で最も美しいカンチレバー橋の1つ」として有名だ。しかし、橋を支える鉄柱は激しく腐食している。

 原因はパーンだ。パーンとは、キンマの葉とビンロウジ、消石灰などを混ぜたもので、かんで味わう嗜好品。タバコを混ぜる場合も多く、インド人は口内リフレッシュや消化促進効果があるとして、好んでかんでは赤い汁を吐き捨てる。ハウラー橋の支柱は、通行人が吐き捨てたパーンで赤く染まっており、これが表面から鋼鉄を食い荒らしているのだ。

「鋼鉄の厚さが3年で半分になった個所もあります」と、橋を維持管理するコルカタ港湾公社(Kolkata Port Trust)の主任技師は話す。「橋を封鎖して補修工事を行う必要がありそうです」

 専門家によると、パーンの成分が含まれているつばが堆積(たいせき)すると、鋼鉄をも溶かす高腐食性の化合物が合成される可能性があるという。

■つばを吐いたら罰金

 この橋は、英国植民地時代の末期に建設され、1943年2月に開通した。全長705メートルだが、夏には酷暑で1メートルほど伸びることもある。これまで、数々の大型台風がこの上を通過していった。2005年には、1000トンの貨物船がこの橋に激突した。しかしいずれの場合も、橋にははかすり傷1つ付かなかった。

 警察は、橋でつばを吐いた者に罰金を科しているが、1日の通行者数が50万人という現実の前には、効果はほとんどない。

■パーンによる健康被害

 パーンをかむ風習は、南アジアの広い地域で数千年前から脈々と続いている。常用すると、歯や歯ぐきが変色するだけでなく、タバコが含まれている場合には喉頭(こうとう)がんや胃がんのリスクも高くなる。

 だが、人気が衰えることはなく、07年には、パーンの香り入りコンドームが発売されている。(c)AFP/Sailendra Sil