【7月10日 AFP】ロシアと米国は9日、冷戦時代以降最大規模のスパイ交換を完了させた。ロシアに拘束されていた米国のスパイ4人と米国に拘束されていたロシアのスパイ10人が計画どおり交換された。

 スパイ問題は米露間の外交問題に発展しかねない問題だったが早期に幕を下ろした。交換の完了後、綱渡りのやりとりといった詳細が徐々に明らかになっている。

■ 15分間の着陸

 ロシアと米国の特別機は9日未明、両国の工作員を乗せてオーストリアのウィーン(Vienna)に到着した。両特別機は滑走路に隣り合って並び、わずか15分後に交換を完了させて離陸した。この場面は一切メディアに公開されなかった。

 ロシア側に引き渡されたスパイの中には「美人スパイ」アンナ・チャップマン(Anna Chapman)さんも含まれており、関係者によれば、ロシア政府専用機は工作員10人を乗せてモスクワ(Moscow)のドモジェドヴォ(Domodedovo)空港へ帰還した。

 ロシア国営テレビでは、ドモジェドヴォ空港の駐機場から、2台のミニバンでどこかへ移動する工作員らの姿が放映された。

 一方、米国機は、英メディアによると英中部のブライズ・ノートン(Brize Norton)空軍基地に一時着陸した後、9日午後9時30分(GMT、日本時間10日午前6時30分)にワシントンD.C.(Washington D.C.)郊外のダレス国際空港(Dulles International Airport)に到着した。

 英米のメディアは米国側が引き取った工作員のうち1~2人が英国で降りた可能性があると伝えており、4人全員が米国本土に帰還したかどうかは明らかになっていない。

■米側がロシア工作員を一斉逮捕

 米ホワイトハウス(White House)によれば、「秘密諜報活動」を行うロシア工作員のネットワークについてホワイトハウスが最初に報告を受けたのは2月だったという。

 その後、6月27日になって米連邦捜査局(FBI)が10年越しの調査の末に工作員10人を拘束。拘束された10人は8日にニューヨーク(New York)の裁判所でスパイ罪の起訴事実を認めて国外追放処分を言い渡されていた。

 一方、ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)露大統領も8日、スパイ活動に従事していたことを認める書面に工作員4人が署名したことを受けて、4人に恩赦を与えていた。

 ロシア側が交換に応じた米国工作員は、米中央情報局(CIA)が隠れ蓑にしていたとロシア側が主張する英企業に機密情報を流したとして2004年に有罪判決を言い渡され、禁固15年の刑で服役中だったイーゴリ・スチャーギン(Igor Sutyagin)氏のほか、ロシア軍の情報機関に所属していた退役将校のセルゲイ・スクリパリ(Sergei Skripal)氏、元ロシア対外情報庁(SVR)工作員のアレクサンドル・ザポロジスキー(Alexander Zaporozhsky)氏。それに、詳細がほとんど知られていないゲンナジ・ワシレンコ(Gennady Vasilenko)氏の4人。

■身元を変えて新生活へ

 米国の元大統領補佐官(国土安全保障問題担当)のフラン・タウンゼント(Fran Townsend)氏は9日、米CNNテレビに出演し、米国に到着した工作員たちは、今後数週間から数か月間にわたってCIAの用意した施設で事情を聞かれることになるだろうと述べた。

 タウンゼント氏は、こういった事情聴取は「対情報機関の観点から」有益であるとして、「彼らから学ぶものはかなり多いだろう」と語った。また、CIAは、元工作員たちに新たな身元を与え、住宅や資金援助を行い新生活への適応を支援することになるだろうと述べた。(c)AFP/Simon Morgan