【7月6日 AFP】長らく中国は安価で労働力を豊富に海外企業に提供してきた。だが、近年になって高まる労働者からの賃金引き上げ要求や、人民元切り上げの可能性などから、海外企業が労働コストの低いバングラデシュ、インド、インドネシア、ベトナムなど、他のアジア諸国へ生産拠点をシフトする流れが進んでいる。

 インドネシアのマリ・パンゲストゥ(Mari Pangestu)貿易相は1月、靴メーカーが相次いで中国からインドネシアに工場を移転する「恒久的なトレンド」がみられると発表。こうした企業による、インドネシアへの投資は過去4年間で計18億ドル(約1600億円)に上るという。

 台湾証券会社Capital Securitiesのアナリスト、ブルース・ツァオ(Bruce Tsao)氏は、中国における急激な賃上げの動きは、すでに利ざやが低下し始めている同国の労働集約産業にとって痛手となると分析する。

■長期的には避けられない海外企業の中国撤退

 ツァオ氏は、中国から海外企業が即時に撤退することはないだろうが、長期的には避けられない流れとみている。

 米スポーツ用品大手ナイキ(Nike)製品の約15%の生産を請け負う台湾の豊泰(Feng Tay)グループは、中国拠点を縮小し、インドでの生産を拡大する計画だという。

 中国の中央銀行にあたる中国人民銀行は前月、対ドルでの人民元弾力化の方針を示した。だが、米国など主要貿易国が求める1回限りの人民元切り上げは除外した。

 無尽蔵にあると思われていた安価な労働力も底をつく兆しが見え始めるなか、経済アナリストらは、世界市場において、人民元が強くなるほど安価な労働コストによる中国の優位性は失われると指摘する。

■中国に代わる労働市場は?

 こうしたなか、中国にとって代わるとアナリストらがみているのが、労働者の平均月収が25ドル(約2200円)と世界最低レベルにあるバングラデシュだ。だが、そのためには多発する労働紛争やぜい弱なインフラの改善が前提となる。

 三菱重工業(Mitsubishi Heavy Industries)は前年9月、ベトナムに三菱エアロスペース・ベトナム(MHI Aerospace Vietnam)を設立しているが、その理由としてベトナムの労働力が比較的、安価であることを挙げている。

 日本貿易振興機構(ジェトロ、JETRO)の調査によると、中国の工場労働者の平均月収が217ドル(約1万9000円)であるのに対し、ベトナムでは101ドル(約8800円)となっている。

 日産自動車(Nissan Motor)のカルロス・ゴーン(Carlos Ghosn)社長兼最高経営責任者(CEO)は前週、「中国での生産状況を変える予定はない」と述べながらも、インドネシアで生産規模を倍増する計画を発表した。インドネシアのインフラ状況が改善されれば、強力な輸出拠点となることを見込んでいるという。(c)AFP/Stephen Coates