【7月2日 AFP】「僕は永遠に死にたくありません。百万年は生きたいです」と、オサドシーさん(35)は言う。投資銀行家の彼は、幸運にも、死の運命から抜け出す道を見つけた。

 彼は、いざとなったら、財産の一部をはたいて脳を冷凍保存し、生き続ける心づもりだ。脳は、将来テクノロジーが進歩したところで、新しい体に移植され、蘇生(そせい)されることになっている。  

「数十年後になぜ死ななきゃいけないんですか?必然性は全くありません。(脳の冷凍保存は)生まれ変わるのではなく、今の人生をずっと続けるということです」

 脳を冷凍保存してくれるのは、ロシアの人体冷凍保存会社「KrioRus」だ。オサドシーさんも、ほかの客も、脳はコンピューターのハードディスクのように動き、中身を保存でき、将来的には寸分たがわず再生できると確信している。

「人格でさえ脳が覚えているのだから、年老いた体をいつまでもとっておく必要なんてありません」と語るのは、同社のダニラ・メドベージェフ(Danila Medvedev)社長だ。

「お客さまには、脳だけを冷凍保存する方法が安上がりで、安全で、回復もおそらく早いと説明しているんです」

 将来生き返ることを目的に行われる人体冷凍術は、ほとんどの国が違法行為と見なしている。2005年創業の同社は、米国以外では初めて、同サービスを提供している。液体窒素の中で保存している人体は、全身が4つ、頭部が8つだ。親族が自宅に保管しているものもあるが、多くは、同社のさびついた倉庫に鎮座する金属製の巨大タンクの中に詰め込まれている。希望すれば、ステップ代わりの机にのぼって、白い霧がたちこめるタンクの中をのぞくことができる。

 メドベージェフ社長は、死因を取り除くためのナノ技術と医学が急速に進歩すると信じており、将来的な蘇生に自信を見せている。「細胞レベルでナノ手術をほどこしたあとで、徐々に温めます。心臓が動きさえすれば新たな人生が始まります」 

 料金は、頭部が1万ドル(約90万円)、全身だと3万ドル(約260万円)で、前払い制だ。

■人体冷凍ならではの「死の定義」

 だが、ソ連時代から続くウクライナの人体冷凍研究所に勤める科学者らは、こうしたサービスに異論を唱える。研究所の所長は、「例え健康な人体を生きたまま冷凍したとしても、解凍したら、生きてはいないでしょう。現在でも、臓器でさえ凍らせてから生き返らせることには成功していません。可能なのは細胞だけです」と述べた。

 KrioRus社は極めて繊細な倫理規範を踏み越えてしまうこともある。同社のサービスを利用する人にとっては、死の定義は「心臓が止まった時」ではない。メドベージェフ社長は、「脳が(新鮮さを失って)ドロドロになった時」だと言う。

 人体冷凍術に賛成する人は、したがって、「法的な死亡」後、あるいはその直前に、できるだけ早く脳を冷凍することを望む。 

 時には、本人の意思に反して遺族が冷凍処理を依頼することもある。先のオサドシーさんの場合、敬けんなロシア正教徒の母親は反対しているが、オサドシーさんは母親の死後、脳を取り出して冷凍保存するつもりだ。

 メドベージェフ社長は、永遠の命を与える冷凍保存は、愛する者を失った人にとっては心の慰めになると語る。冷凍保存を考えている人にはこう言っている。「(必ず生き返ると)保証をするものではありませんが、試してみないのは愚かなことではないでしょうか」(c)AFP/Alissa de Carbonnel