【4月29日 AFP】英国の象徴として長らく親しまれながら、携帯電話の普及によって現役を引退しつつある赤い公衆電話ボックスに「第2の人生」を――。

 地元の日常風景に欠かせないシンボルを何としても守ろうとして英各地の村がさまざまに知恵を絞った結果、高さ2.51メートル、広さ90×90センチの小さなボックスは今、アートや詩を展示する場所として、あるいはミニ図書館として、全国数百か所で新しい門出を迎えている。

■赤い電話ボックスは「遺産」

 イングランド(England)中部オックスフォード(Oxford)の近くにある住民120人の小村ウォーターペリー(Waterperry)では、往年の領主の館の脇に立つ電話ボックスにヒヤシンスの鉢植えを置き、ガーデニングや料理に関する雑誌を並べた。壁は詩で埋めつくした。

 ブリティッシュ・テレコム(BT)が電話ボックスを撤去する方針を発表した時、村は大騒動になり、ある女性などは撤去を阻むため鎖で自分をボックスに巻きつけようとしたほどだった。そして村人たちは電話ボックスを自分たちで管理することにした。

 現在のように模様替えするアイデアを出したのは村議のトリシア・ハラム(Tricia Halla)氏だが、かなりの数の人が一緒に電話ボックス再生に乗り出したという。「(電話ボックスは)象徴だし、歴史の遺産。撤去させてしまうわけにはいかなかった。保存する必要があるのです。英国の象徴なんですから」

■携帯電話時代の荒波にもまれ

 英国の赤い公衆電話ボックスは1935年、ジョージ5世(King George V)の在位25周年記念のために建築家のジャイルズ・ギルバート・スコット(Giles Gilbert Scott)卿がデザインした。郵便ポストに合わせて「郵便色」の赤に塗られた電話ボックスは英国らしさの象徴となり、訪れた観光客たちがこぞって記念撮影をする存在となった。

 しかし、8年前には英全土で1万7000か所あった電話ボックスは、国民のほとんど全員が携帯電話を手にした今、58%が採算が合わず、10%は月に1度しか使用されていない。1か所あたりの維持費は年間平均800ポンド(約11万円)、全ボックス合計で4400万ポンド(約63億円)に上る。

 一部のボックスは飾り棚やミニバーなどに改造し、1300~3500ポンド(約18万~50万円)でインターネット通販してもいる。しかしもっと抜本的な解決法を必要としたBTは2年前、ボックス撤去の通知を各自治体に送った。

■電話ボックスの「里親プログラム」が人気

 ところが、「赤い電話ボックスを残せないかという問い合わせが100通ほども舞い込んだ」とBT幹部。「赤い電話ボックスは、黒塗りタクシーと同じくらい英国を連想するもの。特に、風光明媚(めいび)な村々ではボックスに特別の思いを持っている」
 
 この思いに応えるためにBTが立ち上げたのが、地元に形だけの1ポンド(約142円)でボックスを払い下げる「公衆電話ボックス里親プログラム」だ。2008年8月以降、4000か所のボックスが撤去された一方で、1118か所が自治体の管理下に入り、「ベスト里親賞」が作られるほど人気は過熱している。

 09年「ベスト里親賞」に輝いたのは、イングランド東部ケンブリッジ(Cambridge)近くのグレート・シェルフォード(Great Shelford)村。歴史保存地区の中にある電話ボックスの前に、地元の小学校の生徒たちが作る「番人」の人形を月替りで置いている。4月の番人はギリシャ神話の女神ヘラ(Hera)だった。

 南西部サマセット(Somerset)州のウェストベリー・サブ・メンディップ村では、ボックスをミニ図書館に改造。村民800人は「世界最小の図書館」だと誇りにしている。(c)AFP/Loic Vennin