【4月8日 AFP】独立から歳月の浅い国内の治安強化に努めている東ティモール警察が、殺人や国家転覆を図るとする正体不明の「忍者」たちに対し、宣戦布告した。

 最近「忍者」の仕業とされたのは、前年12月22日のボボナロ(Bobonaro)県での15歳少女殺害事件、それから1月19日にコファリマ(Covalima)県で男の子の乳児が殺害された事件だ。

 自ら完全武装して「忍者撲滅作戦」を率いるロンギノス・モンテイロ(Longuinhos Monteiro)警察長官は、「われわれに挑戦してくる忍者は全員、サンタクルス(Santa Cruz)の墓地に送り込んでやる」と記者団に語った。

■「忍者」と呼ばれた占領時代のインドネシア軍暗殺部隊

 しかしこの「忍者撲滅作戦」は、24年に及んだインドネシアによる残虐な占領時代に、インドネシア軍から学んだ社会統制の手法を東ティモールの警察が用い、「忍者の脅威」を煽り立てているだけの政治ゲームだとみなす人が少なくない。

「インドネシア軍が市民の活動を制限するためによく使った手だ」と説明するのは、東ティモールの人権擁護団体、HAK協会(HAK Association)のロジェリオ・ビエガス・ビセンテ(Rogerio Viegas Vicente)さんだ。

 1975~99年まで続いたインドネシアによる占領下、東ティモールでは住民の誘拐や失踪が日常的に発生し、死亡者は10万人を超えた。ゆえに今も東ティモール人は、謎めいた殺人事件のうわさに敏感だ。インドネシア軍の暗殺部隊は「忍者」と呼ばれ、各地の村の住民たちを震え上がらせた。

 2002年の独立後も、覆面で顔を隠した「忍者」による暗殺が現在に至るまで続いているとの報告もある。08年には首都ディリ(Dili)と北部沿岸のリキサ(Liquica)で、「忍者」が子どもたちを誘拐しようとしているとの通報もあった。

 オーストラリア政府は東ティモールに渡航する自国民に、「武道集団」とは関わらないよう警告している。「武道集団」とは東ティモールで近年、抗争を繰り広げている若いギャングたちのことだ。

■警察の人権侵害との批判も

 しかし東ティモールの殺人事件について調査する人権問題研究家らは、ボボナロやコファリマで警察が追っている「忍者」など存在しないと一蹴する。「これらはほかの県で起きているのと同じ、通常の犯罪事件です」とHAKのビセンテ氏は語る。

 ところが警察は1月22日から、忍者に対する全面的な撲滅作戦を開始した。治安部隊の支援も加わり、作戦は半年に延長された。

 2月には反体制派、東ティモール民主共和国防衛人民評議会(CPD-RDTL)と地下組織Bua-Malusのメンバー計20人が、「忍者」事件に関与した容疑で逮捕された。うち2人は現在も拘束中だ。警察ではふたつの組織が、政府に対するクーデターを企てているとみている。

 しかしボボナオの事件についてHAKは、政敵同士の個人的確執が動機だと反論している。またCPD-RDTLのメンバーたちは、警察のほうに人権侵害の疑いがあると主張し、対抗姿勢を示している。

 東ティモールの人権擁護オンブズマン、「ピース・ディバイデッド・トラスト(Peace Dividend Trust)」は、政治的な争いに対して警察の過剰反応がなかったかどうか調査を始めた。同団体の上級顧問エドワード・リーズ(Edward Rees)氏は「CPD-RDTLにもBua-Malusにも、政治的既得権はほとんどない。政治的競争が健全であるうちは、政治活動に入り混じった犯罪行為を取り締まるのに、警察の高圧的な作戦はまったく必要ない」と批判している。(c)AFP/Matt Crook