【4月5日 AFP】「自分たちが食べる分も捕れないんだよ」。砂ぼこりの舞うメコン川(Mekong River)の岸辺へボートを寄せ、ラオス人の漁師(38)は疲れ果てた声で言った。網にかかっていた魚はほんのわずか。前年の今頃は、1日に10キロ以上の魚を捕ることができたという。

 今は、その半分も捕れれば運が良い方だ。原因は、メコン川の異常に低い――この漁師の男性の経験では最も低い――水位だという。

「(水位低下の)理由が知りたい。魚を釣って市場で売るのがわれわれの生活で、家族を養うための生計の立て方なんだ」。男性はそう語り、自宅のある首都ビエンチャン(Vientiane)郊外の村に向かってふらふらと歩いていった。

■過去50年で最低の水位

 ラオスの一部地域では、メコン川の水位が過去50年で最も低下している。

 ラオスは世界最大規模の内陸漁業国で、メコン川の流域諸国が参加するメコン川委員会(Mekong River CommissionMRC)によると、年間漁獲高は推計390万トン。数百万人が漁業に依存して生活している。

「ラオスには海がないからね。水も食料もメコン川だけが頼りなんだ。とても重要なんだよ」。夕食用の魚を捕るため川に腰まで浸かりながら、別の村の女性(63)は話した。

 メコン川の水位低下で影響を受けるのは、ラオス国内だけではない。上流の中国南西部では、100年に1度といわれる干ばつで2400万人以上が飲料水不足に陥っており、下流のタイでも50年ぶりの低水位を記録している。

■原因はダムか?

 水位低下の原因は現在、激しい論争の的となっている。環境問題の活動家らは、上流にある中国の水力発電用ダムが川の水を吸い上げているのが原因だと指摘する。

「インターナショナルリバーズ(International Rivers)」の活動家によると、水位は単に低下しているのではなく、「不自然に変動している」。こうした変化は、10年以上前に中国で最初のダムが建設された後からだという。

 こうした指摘に対し、8基のダムをメコン川本流に建設または計画中の中国は、MRCの調査結果を根拠に、水位低下は異常気象によるものとの立場を取る。

■今後の開発に警鐘

 原因が何であれこの問題には、MRCが3日発表した報告書によれば、下流に暮らし年間30~40キログラムの魚を消費する6000万人以上の人々の生活がかかっている。

 MRCは報告書で、ダムの新規建設や人口増加がもたらす危険性を指摘し、メコン川流域の今後の開発に対して注意を呼びかけた。

 干ばつとダムの問題は、4日からタイで開催されるMRC首脳会議の主要議題となる見込みだ。同会議には、ラオス、カンボジア、ベトナム、タイの各国首脳と、中国、ミャンマーの閣僚級が参加する。(c)AFP/Rachel O'Brien

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