【3月28日 AFP】仏パリの高級ホテルの一角で今週、大勢の食通たちが、ほんのひとかじりでも良いからありつきたいと集まったのは、「食の地図」から消滅する危機に直面している昔ながらの製法のフランス・チーズだった。

 週末に10周年を迎えたフランスの「チーズの日」を前に、伝統的なチーズの保存・継承に取り組むチーズ生産者団体「フロマージュ・ド・テロワール(郷土チーズ)協会(Association Fromages de Terroirs)」が主催したチーズ・テイスティングだ。

 赤白のワインを口にする合間に給仕係が、酸味の強いブルーチーズからクリーム感たっぷりの山羊のチーズ、バターほどの塊のまわりを堅い皮が覆うチーズなどを次々とパレットに盛り付ける。「すべてのチーズの共通点が分かりますか?」、チーズ生産者のエルベ・モン(Herve Mons)氏に声をかけられた。「全部、生乳から作っているのです」
 
 現在手に入る100~150種類の生乳を原料としたチーズのうち、毎年3種類前後が姿を消している。「フランスはチーズの国として知られているのに、毎年消えていくチーズは増えているのです」とフロマージュ・ド・テロワールのリシェ・ルルージュ(Veronique Richez-Lerouge)代表は嘆く。

 熱狂的なチーズ好きで有名なフランスには、色も香りもさまざまなチーズ1000種類以上があり消費量全体は伸び続けている。しかし、農場で手作りされる伝統的なチーズを、工場で生産されるチーズが駆逐しているのだ。

 最近生産を止めてしまったチーズで最も惜しまれるのは、極上のクリームのようなチーズ、「ヴァシュラン・ダボンダンス(Vacherin d'Abondance)」だ。アルプスのふもと、サボワ(Savoy)地方でセリーヌ・ガニュー(Celine Gagneux)さんが放牧する牛の生乳から、先祖伝来のレシピを使って作っていた熟成チーズだったが2004年、ガニューさんが72歳でついにチーズ作りをあきらめて以降、途絶えてしまった。

「娘さんに後を継ぐ意思はなく、ガニューさんは工業会社にレシピを譲ろうとは思っていないのです」とルルージュ氏は肩を落とす。「スーパーの棚には置かれていないチーズの存在と多様性に、消費者は気づくべきです」(c)AFP/Claire Rosemberg