【2月23日 AFP】オーストラリア・ニューサウスウエールズ大(University of New South Wales)の科学者らは、現存する現生人類としては最古の系統であるサン人のゲノムを解析したと、18日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表した。遺伝子の多様性と遺伝性疾患への理解が深まることが期待される。

 研究では、サン人の年配者と、ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を受賞した南アフリカのデズモンド・ツツ(Desmond Tutu)大主教(78)のゲノム塩基配列が解読された。

 サン人は、ボツワナ、ナミビア、南アフリカにまたがるカラハリ砂漠(Kalahari Desert)に住み独自の言語体系を持つ狩猟採集民族を指す。約2万7000年前から同地に暮らしており、現生人類のなかでは最も古くから存続する系統とされる。

 ツツ氏が研究対象に選ばれた理由の1つは、語群の異なる両親を持っている点が、南アフリカのバンツー(Bantu)系民族の多様性の典型例と目されたため。サハラ以南のアフリカには数百のバンツー系民族集団がおり、インド・ヨーロッパ系言語と同程度に多様な言語が話されているとされる。

 ゲノムの解読結果を比較したところ、ツツ氏はサン人の遺伝子を継承していることが明らかになった。この結果について、ツツ氏は「非常に誇りに思う」と述べたという。サン人は昨今、先祖の土地を追われ、再定住を余義なくされており、ツツ氏はこうした現状を非難する発言を行ったことがある。

■同族集団内でも大きい遺伝子の違い

 今回の研究で最も驚くべき発見は、サン人の異なる言語集団の間では、ヨーロッパ人とアジア人との間よりも、遺伝子の違いが大きいという事実である。

 遺伝子分析では、サン人がどのようにして狩猟採集生活と厳しい環境に適応していったかも明らかになった。

 サン人は、体にバネを与える筋肉遺伝子を持つ傾向が強く、さらに遺伝子変異が苦味化合物の味見を可能にして毒を持つ果実の選別を容易にしていた。

 しかし、こうした遺伝的隔離は同時に、サン人を危機的な状況に追い込んできた。
 
 乾燥した大地に太古の昔から暮らしてきたことは、マラリアなどの病気から体を防御するための遺伝子が進化してこなかったことを意味している。そして、そのマラリアをもたらす農業がサン人の居住地に侵入しつつある。サン人の人口は、推定7~10万人まで減っているという。(c)AFP/Marlowe Hood