【2月9日 AFP】ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)氏が20年前に釈放されたとき、ジョセフィン・ムジ(Josephine Mji)さんはまだ10代だった。現在35歳、3人の子どもがいるが、いまだに貧困から抜け出せないでいる。

 ムジさんは、粗末な小屋に暮らし、ヨハネスブルク(Johannesburg)郊外の道端で果物を売って生計を立てている。「マンデラが釈放されたとき、われわれみんなは、勝利したと確信した。でも、今はどう?仕事も家もないし、生活も苦しい。何も変わらない。自由は私の暮らしに何の変化ももたらさなかった」とため息をついた。

 一方で、黒人の起業家の草分け的存在として知られるリチャード・マポニャ(Richard Maponya)さんは、マンデラ氏の釈放がさまざまなチャンスへの門を開いてくれたと信じている。

 アパルトヘイト時代、黒人の起業や財産保有は、法律で禁じられていた。

 ヨハネスブルク近郊にある豪邸でインタビューに応じたマポニャさんは、「国はこの20年間で飛躍的な進歩を遂げた。向かっている方向は正しい。だが経済の自由が完全に達成されたわけではない。財布のひもを握っているのは依然として白人だ」と問題意識も示したが、「そういう状況も時とともに変化していくだろう」とあくまでも楽観的だ。

 政治の変化は、20年前には考えられなかった黒人中間層の増大を招いた。昨今の世界経済危機の影響で9か月の後退を挟んだものの、過去17年間続いている経済成長もこうした事情を後押ししている。

 しかし、約110万世帯はいまだに粗末な住宅に暮らしている。失業率は30%あたりで高止まりし、犯罪件数も1日あたりの殺人事件が50件と脅威的な数字を維持している。

■白人の不満

 この国の社会悪の直撃を最も受けているのは黒人だが、それ以外の人種も、この国が向かっている方角に不満を感じている。

 プレトリア(Pretoria)に住むアフリカーナー(白人、オランダ系移民の子孫)のエンジニア、John Swanevelderさん(29)は、新しい黒人政府とそれが掲げるアファーマティブ・アクション(差別是正措置)は新たな人種間対立を招いたと考えている。

「マンデラの釈放は良い面も悪い面もある。黒人たちは突然権力を握ったあげくに、権力を適切に扱ってこなかった。その結果、職場でも共同体でも権力闘争が起こり、人種間の亀裂はかえって深まった」

■悪いのはマンデラ以後の政治家?

 ヨハネスブルク郊外のクリップタウン(Kliptown)に住むキャサリン・ジェレミア(Catherine Jeremiah)さん(73)は、マンデラ氏のあとに続く政治家らに非があると考えている。彼らがマンデラ氏の理想に従ってこなかったというのだ。

「マンデラは素晴らしかった。だがそのあとの政治家たちはいい仕事をしてこなかった。彼らは、民衆からは隔絶した存在になっている」

 さらに、政治的な自由は歓迎するものの、自分の生活は決して楽にはなっていないと続けた。「今後20年間で何かが変わるとしたら奇跡ですよ。過去10年間には変化が何一つ起こっていないんですから」

■タウンシップ「ソウェト」の変ぼう

 だが、今や最大の黒人中間層人口を抱えるソウェト(Soweto)にたたずむ写真家のシズウェ・クマロ(Sizwe Kumalo)氏は、新政府は黒人の若者たちに対して新しい未来を切り開いたと実感している。 

「若者たちには(アパルトヘイト時代よりも)多くのチャンスがあり、ビジネスで頭角を現す黒人もたくさんいる。ここを見てください。あちこちに発展が見られます。ソウェトは今や、成熟した郊外都市なんです。20年前までは夢の中でしか考えられなかったことです」(c)AFP/Sibongile Khumalo