【1月5日 AFP】カナダ西部、バンクーバー(Vancouver)郊外のリッチモンド(Richmond)にある、とあるカフェでソーダを注文する客がいる。客もウエートレスも中国人だが、ふたりは難なく英語で会話を交わす。

 ウエートレスは普通語と広東語に堪能なので、どちらで話しかけられてもコミュニケーションに問題はないはずだ。中国人同士でわざわざ英語を使う理由を聞くと、「英語がここの言葉だからね」と言う。

 このような光景は、人口18万8000人のうち半分を中国系住民が占めるリッチモンドでも、またバンクーバーでも珍しくない。バンクーバーの中国系住民は38万1500人。5人に1人が中国からの移民という計算になる。

 中国からの移民の大半は、このようにカナダでの生活にすんなりと馴染(なじ)んでいる。

 カナダではここ10年ほどで、中国人の移民が急増。バンクーバーでは、2001年の中国系住民は5年前に比べて22.8%増。2006年には同11.3%増加した。

■目的はマネーではなく、新しい人生

 しかし通説とは裏腹に、彼らは必ずしもビジネスチャンスを求めてカナダの地を踏むわけではない。中には、祖国に仕送りを送らず、祖国の親族から経済的支援を求める移民もいる。

 2007年に中国・広東(Guangdong)省の広州(Guangzhou)からバンクーバーに移住した女性、エイリーン・ラオ(Eileen Lao)さん(43)も、そのような移民のひとりだ。

 ラオさんは、「生活水準は下がりました。中国では金銭的な問題などありませんでしたから」と語る。しかしリッチモンドに一軒家を購入するために、ラオさん夫婦は、実家からお金を借りるしかなかったという。夫はエンジニアだが、今のところパートタイムの仕事しか見つかっていない。

 なぜそこまでして、海を渡り移住するのか。

 ラオさんは、「自分の人生を変えたかったんです」と答える。生活環境が変わったにも関わらず、彼女はカナダでの第2の人生に「かなり満足」しているという。

 ラオさんは、夫と娘とともにカナダに移住するまで、カナダを4回訪れた。家では広東語を使うが、17歳の娘は学校では英語しか使わない。

 英語も堪能なラオさんは、新天地に馴染むうえで困ったことを聞くと、言葉を詰まらせた。しばらく考えたのちに彼女が思いついたのは、「中国ではポストが緑色」ということだけだった。

「ここでは赤いでしょ。しばらくは、あれがポストだと気づかなかった」

 また、カナダのメディアに対する驚きもあるという。入国して間もない移民の手助けをするNGO「サクセス(SUCCESS)」の広報部に勤めるラオさんは、「メディアが報じる内容が全く違う。中国ではプロパガンダや、成功したことのPRなどだけれど、ここでは大惨事や人権が報じられ、物事の悪い面を探し出そうとする」と語った。

 お国柄の違いはあるものの、他の中国人移民と同じく、ラオさんも将来的にはカナダの市民権を獲得したいと考えている。

 カナダ統計局(Statistics Canada)の2002年のデータによると、カナダに移住した中国人の76%はカナダとの強いつながりを感じると答えている。また、58%はカナダだけでなく、さらに自分のルーツである民族や文化とも強いつながりを感じると回答した。

 ラオさんに言わせれば、アイデンティティーにしろ話す言葉にしろ、1つに絞らなければならない理由はない。ましてや2010年のバンクーバー冬季五輪で1つの国だけを応援しなければならないということもない。

「誰が勝っても、心からおめでとうと言いたいわ。それが五輪の素晴らしいところでしょ?」

(c)AFP/Michel Viatteau