【12月11日 AFP】イングランド(England)でこの冬、およそ100年ぶりに「イングリッシュ・ウイスキー」が復活する。3年間の熟成を終えた最初のシングルモルトの市場販売が、16日から始まるのだ。

 スコットランド(Scotland)のスコッチ・ウイスキーは世界的に有名だが、地方境界線を一歩南に越えたイングランドでは、100年以上前に最後の蒸留所が閉鎖されて以来、1本たりともウイスキーは造られてこなかった。

 世界中の愛好家の胸をわくわくさせる世紀の復活を実現したのは、東部ノーフォーク(Norfolk)州の地主、ジェームズ・ネルストロップ(James Nelstrop、63)、アンドリュー・ネルストロップ(Andrew Nelstrop、37)父子だ。

■オオムギ農家の小さな疑問が出発点

 父のジェームズさんはモルトウイスキー原料のオオムギを作る農家だったが、4年前、収穫したオオムギすべてをスコットランドに「輸出」している事実を、ふと奇妙に感じた。そして、思い切って蒸留所創設に踏み切ったのだ。

 父子は1か月で計画を練り、2006年に同州ラウダム(Roudham)村のセット(Thet)川沿いにセント・ジョージズ蒸留所(St. George's Distillery)を設立、ウイスキー製造会社イングリッシュ・ウイスキー(English Whisky Company)を創業した。

 計画立案から蒸留開始まで、わずか1年2か月。急ピッチの設立にはわけがあった。イングランド北部に別の蒸留所が設立を準備しているとのうわさがあったのだ。「2番煎じに価値はないからね。窓ガラスもドアもない状態で蒸留を始めたよ」(アンドリューさん)

 結局、うわさはうわさのままに終わり、セント・ジョージズ蒸留所は07年3月、イングランド唯一の蒸留所としてチャールズ皇太子(Prince Charles)によって正式に操業開始を宣言された。現在までに投じた資金は250万ポンド(約3億6000万円)に上る。

■100%地元産、日本にも輸出

 原料のオオムギは地元イーストアングリア(East Anglia)地方産を、水はブレックランド(Breckland)帯水層の地下49メートルからくみ上げたものを使用。スコッチ・ウイスキーの有名蒸留所「ラフロイグ(Laphroaig)」でマスターディスティラーを勤めたイアン・ヘンダーソン(Iain Henderson)氏を迎えた。

 そして今年11月27日、同社初のシングルモルトが公式にウイスキーとして認定され、発売の運びとなった。「最初の一滴はこれまでで最大の賭けだった」とアンドリューさん。イングランドには他の蒸留所がなく、できが悪かった場合にブレンドして販売することができないためだ。

 幸い、プレーンもピーテッドも素晴らしい仕上がりとなった。著名なウイスキー専門家、ジム・マレー(Jim Murray)氏の著書「ウイスキー・バイブル(Whisky Bible)2010年版」は、10段階の格付けで上から3番目の「卓越したウイスキー(brilliant)」と判断した。この格付けは、「絶対に買う価値がある非常に優れたウイスキー」と「生きている意義を感じさせるスター級のウイスキー」の間に位置する。

 英国での小売価格は1本35ポンド(約5000円)前後。日本にも輸出される。(c)AFP/Robin Millard

【参考】イングリッシュ・ウイスキー(セント・ジョージズ蒸留所)のウェブサイト(英語)