【11月22日 AFP】スチールとガラスでつくられた超モダンな高層ビルにクモの巣のように張り巡らされた香港(Hong Kong)の竹の足場。これを組み立てる「スパイダー」と呼ばれる足場職人が消えるとの見方がある。

 かつて建設業界に身を置いていた男性は「1957年には竹の足場はなくなるという予言があった」と、その年に開かれた新素材展覧会での話題を思い出して語った。その予言は、新素材が竹に取って代わった中国本土やシンガポールでは現実のものとなったが、香港では今でも1835人が竹の足場職人として登録しており、毎年数人の新人が誕生している。

 香港の業界団体、「建造業議会(Construction Industry CouncilCIC)」主催の講座で竹足場の組み立てを学ぶウォン・ティホン(Wong Tik-hong)さん(18)は、落ちないように垂直方向のポールに足をかけて2階の高さの足場に座ってから、「教室の中にはいたくなかった」と話してくれた。

■高いリスク、低い収入

 植物学では「イネ科」に分類される竹で組み立てた頼りなさげな足場を数十階の高さまでよじ登るのだから、ウォンさんが「地上から見上げると怖かった」というのも当然だ。

 政府統計によると、2008年までの5年間で、香港の建設現場の足場から落ちて死亡したのは16人。うち9人が足場職人だった。

 CICのタン・スンエン(Tang Sung-yuen)教官によると、「自信を付ける」ことがコースの重要な目的だという。CICはコースの安全性を強調しているが、生徒たちは足場職人という仕事の先行きに懸念があることを知っている。

■それでも独立を目指す

「心配があるとしても、生きていかないといけませんから。自分の道を見つけないと」。ウォンさんと共に学ぶツ・ルン(Tsz Lung)さん(20)は竹の足場をしっかりと見据えながら話す。「私は親方になるつもりです」

 足場職人の資格を得てから親方になるまでの4年間の日給は350~400香港ドル(約4000~4600円)程度で、その後ようやく700~800香港ドル(約8000~9200円)程度になる。

 危険が高い割に収入が低いことから、CICが主催する講座の中で、足場職人コースの人気は決して高くなく、今年の生徒数は配管工コース約30人に対し、足場職人コースは7人。前年の修了生はわずか4人だった。

 また、足場に使用する竹の大部分は中国本土から調達しているが、その将来の供給を危ぶむ見方もある。

 しかし、タン教官は、竹は成長が早く中国南部のどこにでもあるとして、そのような見方に否定的だ。また、誰にでもできる仕事ではないが、足場職人を目指す若者が今後もいることを信じているという。

 また、竹の足場は、新人職人が単に熟練した職人になるだけではなく、独立した親方になれるよい機会を提供しているという。「香港で働く人はだれもが、それを最終的な目標にしています」(タン教官)(c)AFP/John Saeki