【11月6日 AFP】オーストラリアのメルボルン(Melbourne)の医師団が5日、脳が収縮する奇病にかかり瀕死の状態にあった赤ちゃんに、まだ動物実験の段階の新薬を投与したところ、わずか3日間で奇跡的な回復を遂げたと発表した。

  「ベビーZ(Baby Z)」と呼ばれているこの赤ちゃんは、2008年5月に誕生した。脳が収縮して有毒な亜硫酸塩が蓄積する遺伝的なモリブデン補欠因子欠損症を発症し、生後60時間後には激しい発作に見舞われた。この病気はオーストラリア人100万人のうち1人の確率で発症するもので、発症すると通常数か月で死に至るという。

   ベビーZの命を救うため、家族は生化学者ロブ・ジャネロ(Rob Gianello)氏に助けを求めた。その後、ベビーZの主治医アレックス・ベルドマン(Alex Veldman)氏によると、ジャネロ氏はある開発中の新薬を見つけ出した。ドイツのギュンター・シュワルツ(Gunther Schwarz)氏が開発した薬で、マウスを使った実験では効果があることが確認されていたが、まだ人間に用いられたことはなかった。

 ベビーZの容体が刻一刻と悪化していたため、この薬がシュワルツ氏によりドイツからメルボルンに空輸されると、医師団は早急に病院の倫理認可と法的な使用承認の手続きを行った。

 その後ベビーZに新薬が投与されると、数時間後には亜硫酸塩のレベルが3分の2以上下がり、3日以内には通常レベルになった。「一か八かのかけだった。治療を受けなかった場合、娘は苦しみながら死ぬことになった」と、母親は語っている。

 ベルドマン氏によると、ベビーZは薬の投与後、筋肉のけいれんがすぐにおさまり、3週間後には発作も90%減ったという。「驚くべき回復の早さだ。今回この薬を初めて人間に用いたが、将来的に全世界の(同じ疾患を持つ人たちの)命を救える可能性もある」と同氏は語っている。

 ベビーZは現在18か月で、脳にダメージを与える疾患のため発達が遅れていたが、治療を受けた後は話しをするようになり、行動も活発になったという。(c)AFP/William West