【10月9日 AFP】米国屈指の大富豪で2007年に死去したブルック・アスター(Brooke Astor )夫人の資産およそ2億ドル(約177億円)をだまし取ったとして、息子で元外交官のアンソニー・マーシャル(Anthony Marshall)被告(85)が詐欺罪などで訴えられた裁判で、ニューヨーク(New York)州地裁の陪審は8日、同被告と被告の弁護士に有罪評決を下した。

■NY社交界のセレブで慈善家

 1902年生まれのアスター夫人は生前、古き良き時代のニューヨーク社交界を代表する存在だった。慈善活動に熱心で、夫の死後に相続したアスター家のばく大な財産を、メトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)やニューヨーク公共図書館(New York Public Library)など、多数の機関に寄付。98年には米国市民に贈られる最も栄誉ある賞の1つ「大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)」を授与された。晩年はアルツハイマー病を患い、07年に105歳で死去した。

■認知症の母から財産をだまし取る

 マーシャル被告は夫人の後見人だったが、弁護士と共謀して財産の管理について夫人をだまし、自分と妻の使用人の給与の支払いに流用したり、美術品やメーン(Maine)州の不動産をだまし取るなどして、ぜいたくな生活を送っていたとされる。

 事件は、被告の息子フィリップ・マーシャル(Philip Marshall)氏が、父親がアスター夫人に食事をろくに与えず、汚れたソファに寝かせるなどの虐待をしていると主張、後見人を変更するよう求める民事訴訟を起こしたことで発覚。刑事訴追へとつながった。

 検察によると、アスター夫人が遺産相続に関して考えを変えたと知った被告と弁護士は、夫人の署名を偽造、「看護婦の手から文字通り引き離し、届かない密室に閉じこめて」被告が相続人となるようはかったという。

■NY社交史でも屈指のスキャンダル

 検察が「堕落した陰謀」と呼んだ裁判は、TVパーソナリティのバーバラ・ウォルターズ(Barbara Walters)やヘンリー・キッシンジャー(Henry Kissinger)元国務長官など、米社交界の人名録に名を連ねる大物セレブが続々と証言台に登場。ニューヨーク社交界を騒がすスキャンダルでは過去数年間で最大の裁判となった。

 マーシャル被告は8日の評決で、重窃盗罪や詐欺罪など14件で有罪となった。量刑は12月8日に言い渡される予定で、それまで保釈中となる。最大で25年の禁固刑となる可能性がある。

 弁護側は、被告が使った金は「夫人が慈善活動より愛する息子に贈りたいと考えを変えた」ためであり、被告は夫人がアルツハイマー病を患っていることは知っていたが、自分の資産を管理できないほど病状が悪化していたとは知らなかったと主張。上訴する構えを見せている。(c)AFP/Sebastian Smith