【8月4日 AFP】大麻が記憶障害を引き起こす生化学的な反応経路をマウス実験で突き止め、大麻を原料とするマリファナの鎮痛効果をもつ薬を、記憶の喪失という副作用なく活用する可能性が開けうると、スペイン・ポンペウ・ファブラ大学(Universitat Pompeu Fabra)の研究チームが、2日発行の英科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」に発表した。

 大麻の法的な位置付けは国によって異なるが、特に米国を含むいくつかの国では、がんや緑内障、エイズ患者などの痛みや不快感を和らげるために鎮痛剤として使用されている。

 一方で、大麻の使用は脳の認知機能を支配する海馬に影響を与え、記憶障害をともなうことは昔から知られていた。しかし、記憶障害が長期的なのものか、使用中だけのものか、また生化学的にはどのような影響を与えるかは盛んに議論されてきた。

■海馬の記憶支配領域に影響

 ポンペウ・ファブラ大学のチームは最初に、通常のマウスで大麻使用の影響を簡単に評価できるよう、認知障害の新たな評価方法を策定した。

 マリファナの有効成分であるテトラヒドロカンナビノール (THC) は、カンナビノイド受容体であるCB1という神経細胞に作用する。CB1は脳内数か所に存在するが、うち2か所が海馬内に集中している。

 次に、それぞれの神経回路網がどのように記憶障害に影響しうるかを調査するために、遺伝子操作されたマウス2グループを作った。どちらのグループも海馬内にあるCB1受容体2か所のどちらかを取り除き、マリファナ常用者が使用するのと同程度のTHCを注射した。

 その後、記憶テストをしてみると、ひとつのグループではマリファナの症状としてよく知られる健忘状態がみられた。もうひとつのグループでは、いわゆるGABA受容体からCB1を取り除いたが、THCには反応しなかった。

 研究者の1人ラファエル・マルドナド(Rafael Maldonado)氏は、これによって記憶を支配するGABA受容体に影響を与えずに、大麻の好影響である鎮痛効果を生じる分子の開発が可能になると期待を述べた。
 
■たんぱく質合成にも変化
 
 また今回の研究で大麻の使用は、脳内で影響を受ける部分で起こるたんぱく質合成に変化を与えることも確認された。マルドナド氏によると、たんぱく質合成の変化は翌日には消えるといった作用ではなく、長期的な変化につながるため重要だ。

 ただし、記憶がどの程度悪化しうるかは分からないという。「長期的ではあっても、恒久的な変化ではない。医療上、大麻を使う患者は心配することはない」。しかし、マルドナド氏は嗜好で大麻を使用する人びとへの影響に関する所見については、言及を避けた。(c)AFP/Marlowe Hood