【5月22日 AFP】汚職の横行に悩まされているアルゼンチンで、正直者のタクシー運転手に見知らぬ人々からのプレゼントが殺到するという珍事が起きている。

 ブエノスアイレス(Buenos Aires)から南東約60キロのラプラタ(La Plata)で、タクシー運転手のサンティアゴ・ゴーリ(Santiago Gori)さん(49)に人生の転機が訪れたのは4月のこと。客を降ろしたゴーリさんは、しばらくして後部座席にかばんがあることに気付く。かばんを開けると、中からは札束が次から次へと出てきたという。

 ゴーリさんは、一瞬だけ自分の「車のローンが脳裏をかすめた」が、ためらわずにそのまま警察に直行。すぐに持ち主が見つかった。

 持ち主は、「あなたは聖人だ」と言い、2日後にゴーリさんに1万2000ペソ(約31万円)の謝礼を渡した。

 この美談を聞いたパブリシストのNicolas Diacoさん(24)と同僚のEzequiel De Luca(22)さんは、ウェブサイト「Devolvelelaguitaaltaxista.com(タクシー運転手にお金を返してあげようドットコム)」を立ち上げた。そして前週末、拾ったお金と同額の目標額、13万ペソ(約330万円)が、5万5000人の見知らぬ支援者から集まったのだ。

 非政府組織(NGO)「トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)」の2008年の汚職ランキングによると、アルゼンチンは第109位。隣のチリとウルグアイは、フランスと同位の23位であるにも関わらずだ。

 ウェブサイトには、「あなたのような人間がいる限り、この国はまだ捨てたもんじゃない」「政治家があなたの正直さの10%でも持ち合わせていれば、この国は素晴らしい国になるのにね!」などのコメントが殺到。コンピューターのモニター、ゴーリさんのタクシーのための新しいタイヤ、ビジネススーツやワインをプレゼントする人もいれば、「ランチをごちそうさせて」といった申し出、さらには米国などから「ウチへ来ませんか」といったお誘いが、ゴーリさんの元に届いた。

 しかしゴーリさんは、普段通りの生活を続けている。朝から夜の9時まで、ラプラタの街でタクシーを走らせる。

 電話インタビューでゴーリさんは、「まったく驚いたよ。会ったこともない人が、自発的にこんなことをしてくれるなんて!」と語った。10日には、「アサド」と呼ばれるアルゼンチン風バーベキューで、2人の若いパブリシストと共にお祝いをしたという。

 ゴーリさんには寄付をしてくれた人たちのリストが渡されており、これから1人ずつ連絡を取ってお礼を言うつもりだという。(c)AFP