【5月12日 AFP】(写真追加)権力に盾突き、物議を醸してきた中国の映画監督ロウ・イエ(Lou Ye、44)が、愛と同性愛を描いた作品でカンヌ(Cannes)に戻ってくる。

 ロウ監督が13日に開幕する第62回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)に出品するのは、最新作『Spring Fever』。2006年、中国当局から5年間の映画制作禁止を命じられたにもかかわらず、同国内で撮影された作品だ。ロウ監督がパルム・ドール(Palme d'Or)獲得に挑むのは3度目。

 撮影は2008年の春に、南京(Nanjing)で2か月かけて行われた。三角関係に陥る登場人物たちをハンドカメラで撮影した。

 ロウ監督と同様に、5年間の制作禁止を命じられながらも『Spring Fever』に参加したプロデューサーのナイ・アン(Nai An)は、さらなる問題が生じるのではないかと懸念している。「我々がやりたいのは映画を作ること。どんな問題も起こしたくはないのです」

■物議を醸した『天安門、恋人たち』

 2人が映画制作を禁じられるきっかけとなったのは、当局の許可なくカンヌ映画祭に出品された2006年の『天安門、恋人たち(Summer Palace)』。タブーとされた1989年の天安門事件(Tiananmen Massacre)を背景に、ラブストーリーを描いた。

 国家ラジオ映画テレビ総局(State Administration of Radio, Film and TelevisionSARFT)は、プリントの品質と技術的な問題を理由に、この作品を許可しなかった。

 しかし、この作品には、数千人の死者を出したとも言われる天安門事件が描かれ、さらには性描写がふんだんに盛り込まれているという、中国の検閲当局にとって看過できない問題が含まれていた。

■さらなるタブーを描いた『Spring Fever』

 『Spring Fever』は、さらなる物議を醸すかもしれない。禁止期間中に制作された上に、中国ではいまだにタブーとされる同性愛を描いているためだ。

 中国北部・遼寧(Liaoning)省瀋陽(Shenyang)出身で、この映画に出演した俳優Chen Sicheng(31)は、こうした理由により映画が中国での公開を禁止される可能性があると語った。さらに、前作で監督とプロデューサーが受けた禁止令に言及し、今回の作品に出演したことで、自分にも何らかの困難が待ち受けているかもしれないと認めた。

 しかし、撮影は順調に進み、当局の干渉もなかったという。フランスと香港(Hong Kong)の投資家が資金を出し、仏・香港合作映画としてカンヌに出品された。

 Chenは、当局に映画制作を禁じられても広く尊敬を集めているロウ監督との仕事は、魅力的で拒めなかったとも語った。「ロウ監督は先駆者。社会に負けない勇気も持っている」

■ロウ監督 対 検閲当局

 そんなロウ監督だが、物議を醸すのは珍しいことではない。

 1993年に制作した初作品は2年間公開を禁止され、中国の考え方では受け入れられない悲劇的なラブストーリーを描いた『ふたりの人魚(Suzhou River)』(2000年)を発表すると、その後2年間映画を撮ることができなかった。

 国際的に活躍する女優チャン・ツィイー(Zhang Ziyi)が主演した2003年の『パープル・バタフライ(Purple Butterfly)』は好評だったが、『天安門、恋人たち』は、政治的な作品ではなくラブストーリーだと監督が主張したものの、議論を呼んだ。

■中国の検閲制度

 プロデューサーのナイは中国の検閲制度を批判する。「中国の映画検閲制度は変わらなければならない。少なくとも、撮影禁止という規定は排除すべきだ」

 一方、Chenはロウ監督のような人物がいれば、検閲制度は改善に向かうだろうと語る。「映画産業は益々商業的になるのに、検閲制度を変えようという人はいないんです」

 AFPはこの件に関し中国当局にファックスで質問を送ったが、返答はない。(c)AFP/Marianne Barriaux