【5月11日 AFP】自分だけのオリジナル・ワインが、しかも自分の名前がラベルとなったワインが、自宅のテーブルを飾るのを想像してみてほしい。

 米経済誌フォーチュン(Fortune)で、「クラッシュパッド(Crushpad)」という米国企業を紹介する記事を読むまで、スティーブン・ボルガー(Stephen Bolger)氏は続く2年間にわたって、仏ワインの名産地ボルドー(Bordeaux)でワイン醸造所の立ち上げに関わるとは思ってもいなかった。しかも、自分でワインを作る「ドゥ・イット・ユアセルフ(DIY)」のワイナリーだ。

「ピンときたんだ」と、経営コンサルタントをしていたフランス系米国人のボルガー氏は自身の転身について語る。「ワインの作り手になりたいという夢は、アメリカ人だけが見る夢ではない。世界中みんなの夢だ」

■面倒な作業はお任せ、簡単なオリジナル・ワイン作り

「クラッシュパッド」は米カリフォルニア(California)州サンフランシスコ(San Francisco)のマイクロ・ワイナリー(小規模醸造所)だ。6000ドル(約60万円)さえ払えば、地球上のどこに住んでいる人でも、自分の樽(たる)に入ったオリジナルのカリフォルニア・ワインを作ることができる。

 仕事をやめる必要もないし、宝くじを当てる必要もない。ワイン作りに関する知識も不要。ビデオ付きの分かりやすい説明ソフトウエアに従えば、大事な判断も、貯蔵室のスタッフに指示を送ることも、簡単にできる。その時間すらもない人は、各種決定をスタッフに任せて、ワインの熟成過程をただ観察していればいい。

 このDIYワインの事業は2004年、クラッシュパッドのオーナー、マイケル・ブリル(Michael Brill)氏がサンフランシスコの自宅のガレージで始め、08年には900万ドル(約9億8600万円)にまで事業規模を拡大した。顧客5000組の大半は友人や家族で作るグループで、離れて住みながら一緒にワイン作りを楽しもうという人が多い。そのうち150人ほどは、レストランオーナーやシェフ、プロのワイン醸造家などで、DIYで作ったワインを販売してもいる。

■DIYワインとボルドー、仏系米国人がつないだ出会い

 前述のボルガー氏は、実は現在、クラッシュパッド・フランス支店の社長だ。
 
 フランス系米国人という自分のバックグランドから、ボルガー氏はすぐにこのDIYワインという米国の発明と、フランスのワイン文化とをつなぐ架け橋に自分がなることを考え、一路、フランスへブドウ探しに向かった。しかし、当初ボルドーのワイン仲介業者は「うまくいくはずがない」とそっけなかった。それでもくじけずに食い下がり、ようやく耳を貸してくれた2か所の仲介業者の助けで、約100か所のワイン醸造所を訪れ、30の銘柄を選んだ。
 
 ボルドーワインとの提携を発表すると、ボルガー氏の携帯端末には、DIYワイン作りを試したいというワインマニアからメールが次々に舞い込み始めた。ボルドー産ゆえの品質に対する期待は明らかに高かった。

■ワイン通も知らなかった作る喜び

 米コンピューター大手ヒューレット・パッカード(Hewlett PackardHP)のヘルシンキ支店長を務めるアスコ・カッシネン(Asko Kassinen)氏もそのひとりだ。「出来上がりの品質に興味がある。ブドウの産地はこの上ないし、コンサルタントも非常にいい。あとはブレンドと熟成の具合だ」と期待する。

 カッシネン氏が選んだブドウの品種は、ボルドーの伝説的なワイン産地サン・テミリオン(Saint-Emilion)の名シャトー、シャトー・シュヴァル・ブラン(Chateau Cheval Blanc)が使っているブドウと同じカベルネ・フランとメルロー。シュヴァル・ブランはボトル1本で数百ドルもする高価なワインだが、カッシネン氏がクラッシュパッドで醸造するワインは、樽換算で6750~9000ユーロ(約90~120万円)、ボトルなら1本22.5~30ユーロ(約3000~4000円)で済む。

 同じく顧客の1人、英国在住のエストニア人、Taavet Hindrikusさんも、ロンドンのオフィスのデスクに座っていながら、夢がかなっているという。「ワイン作りについては、わたしはよく知らないけれど、だんだん分かってきたところだよ。彼らは何かするたびに、レポートをメールで送ってくれるんだ。テイスティングの具合とかもね。これは贅沢だよ。自分だけのワインを味わいたくない人なんていないだろう」(c)AFP/Suzanne Mustacich