【3月5日 AFP】10歳のジェレミア君が、父親から黒魔術師の嫌疑をかけられて火をつけられた時のことを話してくれた。彼の焼けただれたほおを、涙が伝う。

 彼の話はこうだ。ある晩、教会での集会中に、牧師の妻が突然立ち上がり、彼を指さして黒魔術師だと叫んだ。彼はただちに牧師の家に閉じこめられ、悪魔払いと称して食べ物を絶たれ、こん棒で殴られた。自宅に帰ると、父親から首に縄をかけられて学校まで引きずって行かれたが、そこで父親は怖気づいたのか、その後は部屋に監禁された。そして数週間にわたり暴力を受けたあとに、父親が「石油会社から解雇されたのはお前のせいだ」となじって彼にガソリンをかけ、火をつけたという。

 彼は重度のやけどを負ったがそのまま放置された。数日後、ガソリンが入ったジェリー缶がもう1缶あるのが目に入り、脱出を決意したという。

 父親はのちに殺人未遂罪で逮捕された。禁固14年の刑が言い渡される見通しだが、ジェレミア君は残された3人の姉妹を思い、一家の唯一の稼ぎ手である父親の起訴を取り下げるよう訴えている。

 ここはナイジェリア南部、産油地帯ニジェールデルタ(Niger Delta)の貧しい町、エケト(Eket)。彼のように魔女や黒魔術師の烙印(らくいん)を押され、拷問または殺害された子どもは数百人にのぼる。

 これまでに、こうした「魔女狩り」をたきつけたとして牧師を名乗る男ら10数人が逮捕されている。ある男はドキュメンタリー映画の中で子ども110人を殺害したと告白したことがきっかけで逮捕されたが、「子どもを殺したのではなく、子どもの中に潜んでいた魔女を退治しただけ」と主張しているという。

 町の避難所には、ジェレミア君を含め、下は生後18か月から上は16歳までの170人あまりが退避している。多くが、やけどや、なたで斬りつけられたり頭にクギを打ちこまれた跡など、拷問の痕跡を抱えている。

■「宗教」が「石油」と並ぶ主要産業に

Children's Rights and Rehabilitation Network(子どもの権利と再生のためのネットワーク、CRARN)のSam Ikpe-Itauma氏は、避難所にいるこうした子どもたちは「まだ幸運な方」だと言う。「殺されて海に捨てられる子どももいれば、毒を含んだ野イチゴを食べさせられる子どももいます。これを食べて死んだ子は、魔女だということになり、死ななければ魔女ではないというわけです」

 ナイジェリアでは、アフリカの多くの地域同様、呪術信仰の歴史は古いが、子どもが魔女狩りの対象になったことはこれまで一度もなかった。

 一部の専門家は、キリスト教の過激思想や一夫多妻制におけるライバル意識が、子どもを標的にする意識へと向かわせているのではと分析する。

 地元民らは、背景には、近年になって雨後の竹の子のように同地域に増えつつある「自称」牧師たちの金儲け主義があると指摘する。こうした牧師たちは、子どもの悪魔払いをするなどと宣伝して、お金を受け取っているという。

 アクワ・イボム(Akwa Ibom)州の州都ウヨ(Uyo)のある大学講師は、「こうした牧師たちは、自分が魔女呼ばわりした子どもたちに悪い所など何もないことは、十分承知している」と語った。

 あるタクシードライバーは、「この州には、石油以外の産業といったら『宗教』しかないんだ」と、ため息をついた。(c)AFP/Susan Njanji