【10月28日 AFP】直径1メートル弱の深い穴から、2人の男がはい出てくる。数時間ぶりの新鮮な空気。生きて出られたことへの安堵(あんど)感とともに、落胆も見える。新しい人生を約束してくれるサファイアを、今日も掘り当てることができなかった。

 マダガスカル南部イラカカ(Ilakaka)地区には、世界最大のサファイア鉱脈がある。そのため遠く離れた場所からも大人や子どもが集結し、不法に採掘する姿があちこちで見受けられる。一帯は、スイスチーズのように穴だらけだ。ある男性は「この場所で多くの人間が金持ちになった」と言う。穴は、一獲千金を狙う男たちから「スイス銀行」と呼ばれている。

 穴は、バールを使って掘られ、深さ27メートルに達するものもある。採掘された石はラフィアで編んだバッグに詰められ、古いシートベルトとタイヤで作られた簡単な装置で引き揚げられる。

 マダガスカルは世界有数のユニークな生態系で知られ、アドベンチャー指向の観光客には人気のスポットとなっているが、イラカカ地区の推定5万人の採掘者は地下に眠る「輝ける石」のことしか頭にない。

  7時間の採掘を終えて息を切らせながら出てきた男性は「生活の手段として盗みや殺人を犯したくはないから、サファイアを探し続けている」と語る。男性がはめている呼吸器は、袋とプラスチックチューブで即席に作ったものだ。

 3週間前に設営されたある採掘キャンプには、200人あまりが極度の貧困の中で暮らしている。日が沈むと酷暑から一転、寒くなるが、採掘者たちは穴の近くで、ぼろきれ同然の衣服にくるまって寝る。

 危険とはいつも隣り合わせだ。穴同士が近接しているため、地滑りの恐れがある。その上「見返り」が得られる者はごくわずかで、大粒のサファイアを発見できたとしても、貧困から抜け出すには不十分だ。

 45歳のある男性は、3200ユーロ(約38万円)相当のサファイアを掘り当て、このお金で農場の牛を買った。だが、この場所に舞い戻ってきた。「大きく稼ぐには、大きなリスクを背負わなければならない。それが運命だ」

■学校に行けなくなった子どもたち

 幸運を手に入れるためのオッズを上げるために、子どもたちも使役する親は多い。その結果、数千人の子どもたちが学校に行く機会を奪われている。

 学校には3年間通っただけという10歳の男の子は「イラカカ地区には、家族と共に1年前に移り住んだ。僕の担当は選別。すごくきつい仕事だよ」と話す。

  同国の最低就業年齢は15歳。2006年の政府統計によると、イラカカ地区には2万1000人の子どもがいるが、1万9000人が働いており、うち80%が採掘に従事しているという。

 15歳のある少年は、1日12時間働いている。「働き始めた当初は、体をこわした。昼食にいつもありつけるというわけではない」

 人権団体「Talilisoa」は、こうした作業は児童の健康を害し、教育の権利も奪っていると懸念する。同団体は去年から計450人の子どもに対し授業を行ってきた。親たちへの啓発も行ってきたが、「ほかに選択肢はない」と考える親はいまだに多い。

 チャールズさんの13歳の娘は、学校を辞めて採掘場で働き始め、ほどなく妊娠した。「採掘が子どもたちを脅かしていることは認めるけれど、ほかに方法はないのです。故郷の村とは違い、ここでは一晩にして人生を変えることができるんです」(c)AFP