【8月13日 AFP】南極氷海の気候変動を調査しているオーストラリアなどの研究チームは12日、これまで海氷に阻まれ難しかった冬季の南極海洋観測を、ゾウアザラシを使った新しい方法で実施したと発表した。

 調査はオーストラリア・タスマニア大学(University of Tasmania)外郭団体の「南極気候学・生態システム学共同研究センター(Antarctic Climate & Ecosystems Cooperative Research CentreACECRC)」のスティーブ・リントール(Steve Rintoul)氏が、フランス、オーストラリア、米国、英国の研究者と合同で行い、研究論文は米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)に 掲載された。

 研究チームは、ゾウアザラシに海洋観測用のセンサーを取り付け、これまで入手不可能だった南極海のデータを収集した。集めたデータはアザラシが呼吸のため海面に浮上した際に人工衛星に送られた。

 冬季の南極の海洋観測では海氷が障害となっていた。しかし観測船を使った調査は費用がかかり過ぎる上に時間もかかった。人工衛星は海氷の下は観測できず、世界中で海洋観測に使われている自動で浮き沈みする特殊ブイ(プロファイリングフロート)も、氷が覆うと海面に浮上できず、人工衛星へのデータ送信ができないという欠点があった。

 その点ゾウアザラシは、最大で水深2000メートル近くまで潜り、1日最長65キロメートル移動しながら、水温や塩分濃度、水深などを調査することができる。研究チームによると、ゾウアザラシが収集するデータ量は従来の方法に比べて30倍になったという。

 ゾウアザラシを使った海洋観測で最も画期的な側面の1つに、塩分濃度から得られるデータを使って、冬季に形成される海氷量の推計が初めて可能になったことが挙げられる。

 無線送信機を備えた海洋観測用のセンサーは、携帯電話端末ほどの大きさで、ゾウアザラシが繁殖と脱皮のため亜南極諸島に戻ってくる夏季に取り付けられる。

 センサーは冬に向けて脱皮が済んだゾウアザラシの後頭部にしっかりと接着される。アザラシが呼吸のため浮上して頭部が海面に出たときに人工衛星にデータを送信する仕組みになっている。接着されたセンサーは冬が終わり、ゾウアザラシが島に戻って脱皮する際に古い毛皮とともにはがれ落ちる。(c)AFP