【WWFジャパン】
たいていの日本人は、トラを動物園で見た経験があるでしょう。ただ、もともとは野生の動物であることも知っているはずです。
ところが、人に飼育されているトラの数が、野生のトラの数よりも多くなっているとしたら驚きませんか? これは実際の話なのです。

野生生物の国際取引を監視する団体であるトラフィックとWWF(世界自然保護基金)が7月末にまとめた調査報告書(英文)では、米国における事情が説明されています。

野生の状態で残っているトラは、世界におよそ4,000頭。インドや中国、東南アジアといったところにあるトラの生息地が開発され、すみかが狭まっています。
また、トラの骨を漢方薬に用いる、装飾用にトラの毛皮を入手するといった目的で狩猟が行われ、野生のトラはその数を大きく減らしています。

トラといえば、日本のプロ野球でもMLBでもチーム名になっているほどなじみが深い動物ですが、トラのおかれている状況は厳しいのです。残されたトラの数が少ないことから、ワシントン条約という野生生物の取引を管理する国際条約によって保護対象動物となっています。

今では、トラの骨や毛皮を商業目的で国際取引することはできません。海外に出かけ、仮にトラの骨を成分とする漢方薬を買い求めて帰国しても、空港の税関で手放さなくてはならないのです。それほどトラは危機的な状況にあり、国際的な保護の機運が高まっています。

ところが、今回の調査報告書では、米国で飼育下にあるトラは5,000頭を超えると推定されています。こうしたトラはカーニバルのときに出演したり、展示動物としてかり出されたり、ペットとして飼われたりしています。しかも、米国の50州のうち9つの州では個人がトラを所有する際に、許可も登録も必要としないのです。米国の国内法は、トラを保護するのに不十分であり、ワシントン条約の趣旨にも沿っていません。

米国の国内法が不十分であるために、こうしたトラが死後にどのように扱われているのか、この報告書でも実態が解明されませんでした。ただし、飼育下のトラの骨や毛皮が非合法な闇市場に流れているのではないか、という心配されていた事実は確認されませんでした。いったんそういうことがおきると、トラ製品への需要が喚起され、その需要を満たすために、野生のトラへの密猟が増えることにつながるおそれがあります。

米国政府は、すべてのトラについて、当局への届け出を義務化することから始めなくてはならないでしょう。トラがどこに、どういう形で飼われているのか、きちんと把握されていることは、飼育下のトラが闇市場へ流入することを防ぐための最初のルールです。

ちなみに、中国には「トラファーム」(トラを飼育する牧場)があり、およそ5,000頭ものトラが飼育されていると推定されています。そして、トラファームの経営者たちは、合法的にトラの骨や毛皮を流通させたいと考えているようです。中国政府は1993年に、トラ製品の国内での取引を全面禁止にして保護に努めていますが、その取り組みをトラフィックもWWFも支持しています。今でも時折、トラの骨の成分が入ったお酒などの違法事例が見つかりますが、取り締まりの対象になります。

野生下のトラがおよそ4,000頭であるのに対して、中国と米国の飼育下のトラを足し合わせると10,000頭を超えます。絶滅のおそれがあるという理由で国際的な保護動物になっている一方で、人の飼育下で大きく数を増やしているのは、なんともいびつな状態とみるべきでしょう。

狭まりゆく野生のトラの生息地を保護区として守り、密猟にも目を光らせると同時に、飼育下のトラを当局が厳密に管理する必要性が生じていると言えるでしょう。

(c)TRAFFIC/WWF
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