【7月9日 AFP】『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国(Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull)』が公開されたばかりだが、シリーズ次回作のタイトルは「インディ・ジョーンズと偽骨董品の美術商」とすべきかもしれない。 『クリスタル・スカルの王国』には、アステカ文明時代に作られたとされる水晶のドクロが登場するが、現存する複数の水晶のドクロのうち、パリ(Paris)のケ・ブランリー美術館(Musee du Quai Branly)が所蔵しているものが偽物であることが4月に判明。それに続き今月9日、大英博物館(British Museum)と米スミソニアン研究所(Smithsonian Institute)も、それぞれが所蔵しているドクロが偽物だったと発表したのだ。  

 大英博物館とスミソニアン研究所の専門家らは、所蔵するドクロが古代アステカ文明期に作られたものではなく、産業革命以降の道具でカット及び研磨されていると述べている。

■「神秘の水晶ドクロ」は近代の工具で加工されていた

 言い伝えによれば、中南米の古代文明期に製作された水晶のドクロが世界中に全部で13個あり、全部を集めてマヤ暦の最終日である2012年12月21日に1列に並べると強大な力を発揮し、世界の崩壊を防ぐとも言われている。

 しかし、4月18日、こんな言い伝えを信じる人にとっては悲しい瞬間が訪れた。ケ・ブランリー美術館が、ドクロに見つかった線や溝から、宝石を削る器具など近代の道具が使用されたことが判明したと発表したのだ。

 残る2つの博物館のドクロに関しても、専門家が異常な大きさだと述べ、歯痕が妙に直線になっていることから偽物ではないかとのうわさが広がった。そこで、専門家が電子顕微鏡を用いてドクロに残された小さなキズや道具を使用した痕跡を科学的に調査したところ、やはり偽物と判明したという。

 大英博物館のドクロは透明な水晶でできており、1897年に購入された。専門家らは、回転式カッターのようなものでドクロの大まかな形を作り、鼻の穴と目にはドリルが使われ、ダイヤモンドを混ぜた鉄製の物体で表面が滑らかにされたとみている。

 スミソニアン研究所のドクロは白い水晶でできており、入手したのは1992年。道具を使った「かすかな痕跡」が残っており、これも回転式カッターのようなものが使用されているという。また、ドクロのくぼみには黒と赤の堆積物が見つかっているが、X線解析で炭化ケイ素であることが判明している。炭化ケイ素は、自然界にはいん石にしか存在しないが、現代の研磨剤にはたいてい含まれている。  この分析の結果は、「Journal of Archaeological Science」に記載されている。

■偽物ドクロは、いつどこで作られたのか?

 では、これらのドクロは一体どこから来たのか。専門家らは、大英博物館とスミソニアン研究所はもとより、パリ人類学博物館(Museum of Mankind)、フランス国立図書館(French National Library)、全米ヒスパニック協会(Hispanic Society of America)、新聞の記録などを調べて、出所を突き止めようとした。

 スミソニアンのドクロについて唯一現存する文書によると、ドクロは1960年にメキシコ市(Mexico City)で購入されたと記されている。科学者らは、ドクロはこの直前に製造されたのではないかと考えている。

 大英博物館とケ・ブランリー美術館のドクロについては、フランス第二帝政期のフランス人古美術商ボダン(Eugene Boban Duverge)が所有していたという記録が最初のものとなる。

 大英博物館のドクロは、ボダンが1878年から1881年の間に欧州で手に入れたとみられる。1885年にメキシコ国立博物館(National Museum of Mexico)への売却が試みられたが失敗。翌年オークションにかけられ、ニューヨークの宝石店ティファニー(Tiffany)が落札し、その2年後、米カリフォルニア州のビジネスマンに売却される。しかし約10年後、この男性は自己破産しティファニーに売却先を探してもらうよう依頼する。

 そこでティファニーのジョージ・クンツ(George Kunz)副社長は、大英博物館にこのドクロを売り込んだ。彼は、ドクロのこれまでの持ち主の変遷を語り、もともとは古代メキシコのものであるらしいとの噂をもっともらしく語ったが、その真相は当時、誰にも分からなかった。その後の経緯は、まさに「だまされやすい人間の本性」を裏付けているといえよう。(c)AFP