【7月4日 AFP】(記事更新)人生を終えた人は、たいていは棺の中におさまるか、炎の中に投じられる。冷凍保存される人やミイラにされる人もいる。だがラッキーな人は、「永遠に輝く宝石」になることもできる。

 スイス東部のグラウビュンデン(Graubuenden)に拠点を置く会社アルゴダンザ(Algordanza)は、遺灰を人工ダイヤモンドに変えるサービスを提供している。遠くは日本から、毎月40-50件の注文が舞い込む。注文者の職業は、バス運転手から教授まで、多岐にわたるという。 

 このサービスの広告を見たリリーさんは、モントルー(Montreux)に住む娘のミッシェルさんに、自分が死んだら同社に電話するようにとの遺言を残した。リリーさんは3年前に82歳で亡くなったが、その遺灰は0.5カラットのブルーダイヤモンドに生まれ変わり、ミッシェルさんの首に彩りを添えている。「朝から晩まで、寝るときも、このペンダントを着けるの。わたしの中で母は生き続けている」とミッシェルさん。周りの人にダイヤモンドの由来を明かすと、ぞっとするそぶりを見せる人もいるが、大半は「すばらしいアイデア」だと褒め、「石にキスをさせて」と言ってくる人も多いという。

■「遺灰ダイヤ」は2か月程度ででき上がり

 同社の研究所では、防護メガネを着けた従業員が約15台の機械をノンストップで操作をする。「死者に敬意を表するため」、床に引かれた黄色と黒のラインの向こうに見学者が立ち入ることはできない。

 1体あたりの遺灰は平均して2.5から3キロだが、ダイヤモンドを作るには500グラムで充分だと、同社の共同経営者、リナルド・ウィリー(Rinaldo Willy)氏(28)は言う。まず、遺灰の85%を構成するカリウムとカルシウムを分離し、残った炭素を1700℃で超圧縮する。このグラファイトにさらに圧力と熱を加えると、最も固い炭素同素体であるダイヤモンドができあがる。ここまでのプロセスに要する時間は6週間から8週間。天然のダイヤモンドが生成に数千年を要することを考えると、微々たる時間だ。
 
 人工ダイヤモンドはその後、研磨・カッティングを施されるが、ハート形にしてペンダントや指輪にするのが人気だという。色はダークブルーから白まで、故人の個性に合わせて、豊富なバリエーションの中から選べるという。

■人工ダイヤモンド産業は大盛況

 人工ダイヤモンドの価格は、石の大きさ(0.25から1カラット)によって異なり、4500から1万7000スイスフラン(約47万から180万円)。ただし石留め(セッティング)代は含まれていないという。

 ただし、全員が諸手を挙げて人工ダイヤモンドに賛成しているわけではない。ジュネーブ(Geneva)の葬儀場で働くヤニックさんは、遺灰を人工ダイヤモンドに変えて欲しいとの要望があっても断り、今後もそのようなサービスを提供する予定はないと言う。「埋葬と形見に対するわれわれの倫理に沿いません。愛する人を指輪にしてどこにでも持ち歩くようでは、気持ちを断ち切ることができず、悲しみから解放されることもないでしょう」

 だが、人工ダイヤモンド産業は盛況だ。同様の会社はロシア、スペイン、ウクライナ、米国にもある。アルゴダンザ社は2004年に設立後、20か国(欧州以外は6か国)に支店を置き、従業員数は約100人を数える。日本人からの人気は特に高く、日本からは遺灰を詰めたつぼが毎日2-4個届くという。同社は中国とインドにも支店を置く予定だ。

 ウィリー氏は、こうした人気の背景に「移動社会」があると分析する。家元を遠く離れると、墓参りは容易ではない。火葬にする人は増えてきたものの、骨壺を持って海外へ移動するには特別な許可をとらなければならない。

 人工ダイヤモンドの注文は、大半が愛する人の死後に遺族から寄せられるが、生前に自ら注文する人が増えてきたという。生前に代金を支払った人には、遺灰を「永遠のダイヤモンド」に変えることを約束する保険証書が手渡される。(c)AFP/Patrick Baert

「遺灰からダイヤモンド」のサービスを提供するアルゴダンザ社のウェブサイト(日本語)