【6月25日 AFP】匿名での配達、ペットフードに偽装――米国で、低温殺菌処理をほどこしていない牛乳、いわゆる「生乳」が健康食品ブームの新たな主役となり、違法販売が広がっている。

■他州から配達手配、「麻薬の密売のよう」

 バージニア州(Virginia)に住むマーサさんも、違法販売を利用する1人。「生乳はぜんそくから自閉症まで万病に効く」とのうわさを信じて、ペンシルバニア州(Pennsylvania)のアーミッシュの農場に、定期的に生乳を注文している。2週間に1度、自宅近くの指定場所まで自動車で向かい、そこに置かれた3ガロンの生乳を受け取る。

「麻薬の密売でもしている気分よ。ばかみたい」とマーサさん。名字は、注文先の農業従事者に迷惑がかかるからと言って明かさなかった。

 バージニア州を含め、多くの州で販売を禁止されているにもかかわらず、生乳はひそかなブームとなりつつある。食品価格の上昇に苦しむ人がいる一方で、こうした「自然な」牛乳に1ガロン(約4リットル)当たり20ドル(約2160円)を喜んで支払う消費者がいる。

■「万病に効く」? 拡大する生乳消費

 米消費者保護団体「ウェストン・A・プライス基金(Weston A. Price Foundation)」によれば現在、米国内で約50万人が生乳を日常的に消費しているとみられ、その数は近年「爆発的に」増加しているという。

 生乳をめぐる米食品医薬品局(Food and Drug AdministrationFDA)の見解は明確だ。どれだけ慎重な生産体制を敷いても「危険を伴う可能性がある」として、消費者に対し「生乳の消費は控える」よう勧告している。

 低温殺菌していない生乳は、リステリア菌、大腸菌、サルモネラ菌をはじめとした病原菌が繁殖する恐れがある。FDAの記録では2005-06の1年間で、生乳を飲んだことに起因するこれらの病原菌の感染症発生が10件以上確認されている。

 しかし、国民はFDAの見解を信用せず、生乳は健康にいいという事例にばかり耳を傾けているのが現状だ。

 欧州の子ども1万5000人を対象に最近行われた調査でも、生乳はぜんそくやアレルギーに効くとの結果が得られたとの報告があるそうだ。

 マーサさんはこれまで8年間、牛乳の摂取による下痢症状などを伴う乳糖不耐症や、大腸炎などに苦しんできた。ところが生乳では、そうした症状がいっさいみられない。しかも生乳は「とってもおいしい」のだという。

■現在の生乳は安全か、合法な州も

 325店舗で年間550万ドル(約5億9300万円)の生乳製品の売上げを誇るカリフォルニア州(California)のマーク・マカフィーさんは、「低温殺菌をしない生乳には、大切な酵素も生きているんだ」とその長所を力説した。

 マカフィーさんによれば、生乳は胃腸に優しい。乳牛と生産装置を清潔に保ち、乳牛の定期検査さえ実施していれば、健康被害の恐れなどないと主張する。

「たしかに100年前には生乳で大勢の人が亡くなったが、現代の生乳はまったく別物だ」(マカフィーさん)

 カリフォルニア州では生乳の販売は合法だ。州内の生乳消費者は約4万人。州当局が毎月、検査を実施しており、商品には必ず健康被害に関する警告文が記載される。州外への販売は原則禁止だが、初乳を含む場合には健康補助食品に分類され、販売が可能となる。

 ペットフード用の生乳も州外販売が可能だが、当局は、自分で飲むために買っている消費者がいると指摘している。

 生乳の違法な州外販売は1年の禁固刑と10万ドル(約1080万円)の罰金となる。マークさんもすでに州外販売は行っていないそうだ。(c)AFP/Alice Ritchie