【6月5日 AFP】(写真追加)米大統領選の民主党指名候補争いで、バラク・オバマ(Barack Obama)上院議員の指名が確実となった。民主党は、初のアフリカ系(黒人)大統領候補が国民の支持を得られるのかというリスクを承知で、賭けに出ようとしている。

■米選挙では「肌の色」が大きな争点に

 米国では人種がいまだ対立を生む問題で、オバマ氏の肌の色が政権奪還を目指す民主党にとって障害となるかという論点は、政治アナリストの大半が公の議論を避けている。

 しかし予備選の結果をみれば、人種が候補者選びの大きな争点になっているのは明らかだと、ワシントン大学(University of Washington)教授(心理学)で政治アナリストのアンソニー・グリーンワルド(Anthony Greenwald)氏は言う。

 米世論調査機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)発表の研究報告の中で同氏は、オバマ氏のライバル、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員が、18の予備選の半数で8ポイント以上の差をつけてオバマ氏に勝利したことに言及。「米国の州選挙で、今でも人種が大きな争点であることは明らかだ。その州でどれだけ人種の融合が進んでいるかによって、結果への影響力が決まる」と述べた。

■歴史が示す事例―高齢白人層に強い抵抗感

 オバマ氏は3月に人種を直接とりあげた演説を行い、人種を超えた米国民の融合というビジョンを提示。選挙で自らの人種が争点になるという見解を切り捨てた。

 しかし米国の政治史では、人種が理由で選挙に敗れる現象が「The Bradley Effect(ブラッドリー効果)」という名で知られている。1982年のカリフォルニア(California)州知事選で、世論調査では大きくリードしていたトム・ブラッドリー(Tom Bradley)元ロサンゼルス(Los Angeles)市長が敗れたことに由来する。世論調査に答えた有権者の多くはアフリカ系米国人の知事に抵抗はないと答えていたが、投票結果でそれが偽りだったことが明らかとなった。

「労働者階級の白人有権者にとって、人種は非常に大きな意味を持つ」と指摘するのは、クイニピアック大学(Quinnipiac University) の世論調査機関のクレイ・リチャード(Clay Richards)氏だ。「その意味がどれだけ大きいかは分からない。しかし、高齢の白人有権者の中に黒人候補を大統領に選ぶことに抵抗を感じる人がいることは事実だ」と話す。

 ケニア人の父とカンザス(Kansas)州出身の白人女性を母に持つオバマ氏は、ジョージア(Georgia)、サウスカロライナ(South Carolina)、ミシシッピ(Mississippi)といった黒人層の厚い州で世論調査よりも良い結果を出した。それでもオバマ氏の人種は、結局は「資産」ではなく「負債」であると言わざるを得ないとグリーンワルド氏は指摘する。

■反発するのは保守派、実質影響なしとの声も

 クリントン氏は予備選を戦う中で、本選で共和党のジョン・マケイン(John McCain)上院議員に勝てるのは自分だと主張、人種を争点化するかのような姿勢をみせた。オバマ氏が労働者階級の白人票を集めることは難しいと指摘、オハイオ(Ohio)やペンシルベニア(Pennsylvania)など重要な州で勝てるのは自分だと訴えた。

 これに対し、メリーランド大学(University of Maryland)のトム・シャラー(Tom Schaller)准教授(政治学)は、黒人候補に投票しない有権者の大半は筋金入りの保守派で、いずれにしても民主党候補に票を入れることはないと見て、「ブラッドリー効果がオバマ氏にも当てはまるとは私は思わない」とクリントン氏の主張を受け流す。

 民主党は南部州なしでも総選挙に勝てるとする著書もあるシャラー准教授は、今回の大統領選について「有権者の4分の1を白人以外が占める初の選挙」と指摘した。予備選でクリントン氏に多くの票を投じたヒスパニック系住民もその中に含まれるが、彼らが11月の本選で厳しい移民対策を掲げるマケイン氏に投票する可能性は低い。(c)AFP