【5月20日 AFP】イスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺漫画を検閲しようとするイスラム教の活動家らを前に、表現の自由を守ろうと奮闘する1人の編集長。まだ記憶に新しいこの文化戦争を描いたフランス映画が第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)に登場した。

 ダニエル・ルコント(Daniel Leconte)監督の特別招待作品『C’est Dur D’etre Aime Par Des ConsIt’s Hard Being Loved By Jerks)』は、2006年にムハンマドの風刺漫画をフランスの左派系週刊誌シャルリー・エブド(Charlie Hebdo)に転載し、イスラム教団体に訴えられたフィリップ・ヴァル(Philippe Val)編集長が体験した苦しい裁判を題材にした2時間のドキュメンタリー。

 風刺画はもともとはデンマークの新聞に掲載された。これをきっかけに、世界中でイスラム教徒らによる抗議の嵐が吹き荒れ、ヴァル編集長は、イスラム教とテロリズムが結び付いているかのような印象を与える漫画を掲載したとして、2つのイスラム教団体から訴えられた。

 裁判はフランスにおける「表現の自由」にとって大きな試練となった。ヴァル編集長は2007年3月、無罪を勝ち取っている。

 風刺漫画のうち1枚はフランス人漫画家による「原理主義者に閉口するムハンマド」と題された作品で、落胆したムハンマドが頭を抱えて「アホどもに愛されるのは難しい」とつぶやいている。これが映画のタイトルになった。

 ルコント監督は映画の目的についてカンヌの記者団に対し、「(繊細な主題に取り組むことで)火に油を注ぐのではなく、緊張を緩和することを目指した」と語った。「裁判とその判決は歴史的なものであり、宗教と政治の境界線を引き直した」とも強調した。

 また、映画の構想へは多くの関心が寄せられたものの、その主題ゆえに資金集めが困難だったことも明かした。テレビ局からはスポンサーになることを拒否されたという。

 作品の中で最も鋭いやりとりの1つが、シャルリー・エブド誌の弁護団の1人、リシャール・マルカ(Richard Malka)弁護士が「原告団の望みは、フランスにおいて(イスラム教が)ほかの宗教と同じ扱いを受けることですか?」と問いかける場面だ。

 問いかけに続いてマルカ弁護士は、キリスト教徒、ユダヤ教徒、仏教徒にとって「はるかにショッキング」と思われるシャルリー・エブド掲載の風刺漫画の数々を示す。そして、「このようにキリスト教徒は、イスラム教徒より10倍もひどくシャルリー・エブド誌上で侮辱されてきた。他宗教と同じ扱いを望むというのなら、そのとおりにしよう」と発言したのだ。

 エンターテインメント情報誌バラエティ(Variety)は、「基本的だが見過ごされがちな原理のために、脅迫も死刑宣告もものともせず敢然と立ち上がる人を力強く描いた」と同作品を激賞している。 

 同じくハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)は、「読者の政治的信条がどうであれ、シャルリー・エブドとその言論の自由を擁護する強い姿勢に、声援を送ることになるだろう」との評を載せている。(c)AFP/Dominique Ageorges