【4月2日 AFP】イスラム教徒にとって豚肉は御法度だが、モロッコでは観光業の発展と畜産業者の実利主義のおかげで、養豚業が一大ブームを巻き起こしている。
 
「観光業があるところに豚あり」と語るのは、沿岸部にある都市アガディール(Agadir)郊外で250頭の豚を飼育しているサイードさん(39)。元は養鶏業を営んでいたが、鳥インフルエンザの打撃をこうむり、20年前にフランス人と共同で養豚業を始めた。

 観光客の数が2010年には1000万人を超えると予想されるモロッコ。サイードさんは3年以内に豚を倍増させて需要の急増に応えたい考えだ。だが、自分自身はイスラム教の教えに従って豚を食べない。「イマーム(宗教指導者)は豚を飼育していることで、わたしを非難したことはありません」

 北アフリカ諸国において、アルジェリア、リビア、モーリタニアでは養豚業が禁止されているが、モロッコとチュニジアでは容認されている。両国のビーチや砂漠には欧州からの観光客が押し寄せる。

 アガディールのあるリゾートホテルでは、客の98%はヨーロッパ人。朝食にはベーコン、ランチにはハム、ディナーにはポークチョップを食べる。食堂には、イスラム教徒の客向けに注意書きが張られている。

 モロッコ国内には養豚場が7か所あり、計5000頭が飼育されている。豚肉の年間生産高は推定270トン、収益は160万ドル(約1億6000万円)にのぼる。飼育者はイスラム教徒4人のほかに、同じく豚肉食が禁止されているユダヤ教徒が2人いる。

 1000頭を飼育するユダヤ教徒のヨエルさん(32)によると、アガディールの屠殺場では、イスラム教の戒律に従って行われる食肉処理場とユダヤ教の食肉処理場は別々に分けられているという。「宗教は個人的なもの。わたしがやっていることは生計を立てるためであって、ラビも(養豚業について)とやかく言ったりはしない」

 ヨエルさんの養豚場が生産する豚肉のうち、約80%はアガディールとマラケシュ(Marrakech)のホテルで消費される。残りはスーパーマーケットなどへ売られ、中国人労働者らが買っていく。

 アガディールを訪れたあるフランス人観光客は、「イスラム教の国だから豚肉はないと思っていた」と驚きの声を上げていた。

 ヨエルさんは活況の波に乗り、3年前に従業員31人の小さな会社を設立。だが、観光に頼るゆえのリスクは承知している。実際、1990年の湾岸戦争、2001年の9.11米同時多発テロ、2003年のイラク開戦後には多額の負債を抱えることとなった。

 とはいえ、モロッコ各地のホテルから注文が舞い込む現在、その需要に応じるべくまい進する日々だ。(c)AFP/Samy Ketz