【3月12日 AFP】記録的な原油価格高騰で潤うアラブ諸国が、世界一高いタワーを建設しようとしのぎを削っている。

 発見されている世界の石油埋蔵量の4分の1が国土に眠るサウジアラビアは最近、紅海沿岸のジッダ(Jeddah)に高さ1600メートルの超高層タワーを建設すると発表した。中東経済誌「ミドルイースト・エコノミック・ダイジェスト(Middle East Economic DigestMEED)」によると、同タワーが完成すれば、隣国のクウェートやアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ(Dubai)首長国が計画する「世界一タワー」を追い抜くという。

■サウジは1マイルタワー、クウェートはアラビアンナイトで1001メートル

 ニューヨーク(New York)の「フリーダムタワー(Freedom Tower)」など、現在世界で建設中の高層ビルはどれも高さ700メートルを超えていない。

 ジッダの1600メートルタワー建設の入札に乗り出したのは、リヤド(Riyadh)を拠点とする投資会社キングダムホールディング(Kingdom Holding)。同社は、サウジアラビアの富豪アルワリド・ビンタラル(Al-Walid Bin Talal)王子が運営している。

 詳細は依然非公開だが、英ハイダー・コンサルティング(Hyder Consulting)が総合エンジニアリング企業アラップ(Arup)との共同事業で、総額100億ドル(約1兆円)規模ともいわれる建設受注に動いているとMEED誌は報じている。この通称「マイル・ハイ・タワー」建設には、建設管理者として米巨大建設企業ベクテル(Bechtel)、事業計画者としてサウジ企業Omraniaの名も挙がっている。

 一方、最近クウェートが計画を公表したのが、アラビアンナイトとして知られる『千夜一夜物語(One Thousand and One Nights)』にちなんで高さを決めた1001メートルのタワー。最上階付近には三方に翼状のフロアを設計し、イスラム教のモスク、キリスト教の教会、ユダヤ教のシナゴーグを配置し、3つの一神教の和合を象徴するという構想だ。

 この1001メートルの高層ビルは、中央アジアとヨーロッパを結んだ「自由貿易」ルート、シルクロードに着想を得た総額770億ドル(約7兆9000億円)のプロジェクト「シティー・オブ・シルク(絹の街)」の中心事業だ。イラク国境に近いクウェート湾の北端スビヤ(Subbiya)に75万人分の住宅を供給する計画で、2030年の完成を目指している。

 世界の石油埋蔵量の10%を握り、湾岸諸国の最先進国の座を競ってきたクウェートの海外資産価値は近年、原油価格高騰による収入で2130億ドル(約22兆円)にふくらんだ。

■先陣切ったドバイでは2大ライバル・プロジェクト

 しかしクウェートもサウジアラビアもこれまで、UAEの経済的中心地ドバイの発展に追いつくために必死に努力してきた。

 ドバイで建設中の超高層ビル「ブルジュ・ドバイ(Burj Dubai)」は前年7月で512メートルに達し、台湾の「台北101(Taipei 101)」を抜いた。現在はすでに600メートルを超えている。建築総額10億ドル(約1000億円)のブルジュ・ドバイの最終的な高さは公表されていないが、デベロッパーのエマール・プロパティーズ(Emaar Properties)によれば700メートルを超えることは確実で、地上160階以上になるという。

 ブルジュ・ドバイもまた総額200億ドル(約2兆550億円)、集合住宅3万棟と世界最大のショッピングモールを擁する開発ベンチャー事業「ダウンタウン・ブルジュ・ドバイ(Downtown Burj Dubai)」の目玉プロジェクトだ。

 しかし、ブルジュ・ドバイに競争を挑むのは、同じUAE最大手デベロッパーのナキール(Nakheel)だ。同社はシンプルにただタワーを意味する超高層ビル「アルブルジュ」の建設構想を発表。こちらも最終的な高さは明らかにされていないが、ブルジュドバイを抜く計画だと地元では報じられている。ナキールはドバイ沖に、ヤシの木型の人工島を中心に世界地図を模した約300の人工島群「ザ・ワールド(The World)」を開発中だ。

■環境保全の取り組みと逆行、懸念の声も
 
 欧米化を進めるドバイ首長国は経済および娯楽のハブセンターを目指し、大規模な建設ラッシュのさなかにあるが、その背景には産出原油の先細り懸念がある。
 
 また、石油資源に恵まれたこうした湾岸諸国の数十億ドル規模のプロジェクトは、建築工学的には驚異的かもしれないが、環境保全に対する意識向上が叫ばれる昨今、その実用性に疑問の声もある。ドバイでは新たに建設する建築物に対し、エネルギー効率の目標を厳しくするなど、緑化に関する実績をさらに強化する法律を制定した。

 しかし、こうした未来の世界一記録を競う超高層タワーがたとえ新たな環境基準を採用したとしても、「これだけの高さは本当に必要なのか」と、オーストラリア人建築家Allan Chamberlin氏は疑問を呈している。(c)AFP/Wissam Keyrouz