【2月26日 AFP】注意欠陥多動性障害(Attention Deficit Hyperactivity DisorderADHD)の息子クリストファー(Christoffer)を持つリタ(Rita、50)は、10年以上前に息子の何が悪いのかを探り出そうとしていたころのことを思い出すと涙を流さずにはいられない。しかし、食事の変更によりすべてがどのように変わったかを説明する彼女の顔には笑みがこぼれる。

「赤ちゃんのころ、固形物を食べさせ始めた途端に何かがおかしいことに気付いた。食べ物が彼の生気を奪い取ってしまうようだった」とリタさんは語る。牛乳や穀物などいくつかの食品を断つまで、クリストファーは受動的行動と多動性行動の間を行ったり来たりした。

 ノルウェーの首都オスロ(Oslo)を拠点とする科学者Karl Ludvig Reichelt氏は、代謝障害によりカゼインなど特定のタンパク質の分解が困難になると、ADHDなどの精神機能障害を引き起こす可能性があるという説を唱えていた。

■実験では大きな違いが

 同国南西部のスタバンゲル(Stavanger)の教育者や研究者からなる小さな団体はこの説を証明するため、1996年から1997年にかけて、当時4歳から11歳だった多動性障害が疑われる子ども23人を対象に、牛乳を飲まない食事療法を実施した。現在14歳で問題なく成長したクリストファーもこの中の1人だ。

 プロジェクトを支援したMagne Noedland氏は「水曜日に食事療法を始めて、週末までに行動が大きく改善した子どももいた」とプロジェクトの成果を説明する。

 対象の子どもは全員、尿中に含まれるアミノ酸が結合したペプチドの量が通常値を大きく上回っていた。Reichelt氏によると、ペプチド量の過多はある種のタンパク質の分解のために必要な酵素が阻害されているか失われていることを意味し、これは脳にアヘンのような効果をもたらすという。

 子どもたちは最初の1年はカゼインを摂取しない食事療法に厳しく従った。結果は驚くべきもので、23人中22人について、行動や集中力の持続時間に改善が見られたという。

 その後、多くの子どもはさまざまな理由で食事療法をやめ、中には薬物療法をとる子どももいた。一方、8年後にも依然として6人が乳製品を完全に断ち、数人は小麦、ライ麦、大麦、オーツ麦などにふくまれるグルテンの摂取もやめていた。

 その結果、食事療法をやめた子どもと継続した子どもの間には大きな違い見られたという。

「何も学ぶことができなかった子どもが次の日には理解力がついているのを見るのは、教育者としてすばらしい気持ちだった」とプロジェクトにかかわった教育者の1人、Kristine Fosse氏は語る。

 現在でも牛乳とグルテンの摂取を避けているSigbjoernさん(17)は「食べてはいけないものを食べたときはすぐ分かる。集中するのがすごく難しいんだ。試験前にはいつも気をつけているよ」と、食事でのささいな過ちが学校での成績に影響すると語る。

 ノルウェーでは近年、ADHDの子ども数百人が牛乳を摂取しない食事法をとっている。一方、Fosse氏によると、多くの医師がこの療法について両親に告げないため、かなりの労力を払わなければこの情報を得ることができないという。
 
 Sigbjoernさんの母親Greteさん(52)は「わたしは良い教育を受け、医師がわたしのしていることをばかにしても立ち向かうことができることをうれしく思う。親として、薬物療法をとる前に、少なくとも子どもの食事を変えることを試してみたいとは思いませんか」と語る。(c)AFP/Nina Larson