【2月4日 AFP】大統領選に端を発した民族衝突で多数の死者が出ているケニア。同国西部の小さな町ンジョロ(Njoro)では、住民が協力して弓矢で自衛している。

 町内の木製の門構えのほこりっぽい敷地では、男性6人が腰掛けて一心に矢を削っていた。男性たちは刀を研ぎ、弓を組み立てながら、戦いの準備をしているところだと話した。

「ひと月前に村が襲撃されて以来、矢を作っている」と話すのはシルベスター(Sylvester)さん(24)。あたりには鏃(やじり)になる鉄くぎをハンマーで叩く大きな音が響く。「自衛のためなんだ」

 ンジョロは前年12月の大統領選をきっかけに激しい民族衝突の起きたリフトバレー(Rift Valley)州ナクル(Nakuru)郊外にある小さな町で、明確な境界線によって対立する民族が隔てられている。

 シルベスターさんは、ムワイ・キバキ(Mwai Kibaki)大統領と同じキクユ(Kikuyu)人の出身。キクユ人は、ルオ(Luo)人やカレンジン(Kalenjin)人などと対立している。

 ケニア国内では、なたや弓矢などの武器が使用された激しい衝突によって、これまでに数百人が死亡した。リフトバレー州の病院関係者によると、弓矢による死者が次第に増えており、毒矢が頭部や胸部に残っているケースもあるという。

 ンジョロの「弓矢工場」では、急ごしらえの作業場の木材や干し草のあいだをニワトリやイヌが歩き回っている。

 シルベスターさんによると、「1日に作れる弓矢は80-100組」。地元有志らが協力して弓矢作りに必要な道具を揃えるための資金を貯めているのだという。

 弓を作るには堅い木を強い力で曲げ、弦を張り、スプリングを取りつける。こうすることで射程距離500メートル以上、全長1.2メートルの弓ができあがる。

 ンジョロのサミュエルさん(25)は出来上がった矢の束を手に「カレンジン人がいつなんどきやってくるか分からない。油断しているところを捕まれば殺されるだろう」と語った。

 戦闘に加わらない女性や女児は、弓矢を作る材料の調達を助ける。地元の指導者たちは秘密の弓矢工場が複数あることを承知しているが、警察には隠している。10人1組で構成される5つの集団が町のあちこちに散らばって弓矢を作っているという。

 リフトバレー州の警察署長は、弓矢が人に対する武器として使用され始めたのは「まったく予想外だった」と話す。「今回の衝突以前には、弓矢は狩猟などの活動に使われるのが主で、こうした攻撃には使われなかった。非常に誤った使い方だし、これまでにはなかったことだ」(c)AFP/Alexis Okeowo