【1月25日 AFP】米国の研究チームが、バクテリアのDNAを人工合成することに成功したと発表し、世界初の人工生命の創造に向けた大きな一歩が踏み出された。研究成果は24日発行の米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。

■人工生命の創造まで「あと1歩」

 研究成果を発表したのは、J・クレイグ・ベンター研究所(J.Craig Venter Institute)の研究チーム。同チームのハミルトン・スミス(Hamilton Smith)氏は「今回の研究で、より複雑なゲノムの合成も実現可能であり、バイオ燃料など重要な分野への拡張性があることが証明された」と話す。5年にわたる研究は現在、人工生命の創造まであと1歩の段階まできているという。

 同研究所の主宰者クレイグ・ベンダー(Craig Venter)氏は、人工生命体が病気や地球温暖化の改善に寄与する可能性があると称賛し、物議を醸した科学者。

■人工生命には賛否両論、研究は最終段階へ

 人工生命体の創造については、倫理的観点や悪影響をもたらす可能性などから賛否両論がある。

 人工生命体の創造は科学における「聖杯」の1つとされるが、同時に、オルダス・ハックスリー(Aldous Huxley)が1932年に記した著書『すばらしい新世界(Brave New World)』の中で予見されたような恐怖心を呼び起こすものでもある。同書では、実験室で人工的に育てられる胎児のために、自然出産が抑制される様子が描かれている。

 研究チームのダン・ギブソン(Dan Gibson)氏によると、研究は全3段階のうち第2段階まで完了しているという。すでに研究が始まっている最終段階では、細菌マイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)の合成ゲノム配列だけからこの細菌を作り出すことが試みられている。

 性感染症の原因となるマイコプラズマ・ジェニタリウムはあらゆる生命体の中で最も単純なDNA構造を持つものの1つ。人間のゲノム数3万に対し、この細菌では580に過ぎない。

 研究チームが合成し、マイコプラズマ・ラボラトリウム(Mycoplasma laboratorium)と名付けられた染色体は最終段階で生きた細胞に移植され、うまくいけば新しい生命体に成長するはずだという。

■「真の創造」への道は遠い?

 一方、ほかの科学者らは、研究チームが人工生命を創造できるまでには長い道のりがあるとして、慎重な姿勢を崩していない。

 カナダの監視団体ETCは、ベンダー氏がマイコプラズマ・ラボラトリウムの特許取得を申請したことを受け、説明責任について懸念を示している。

 同団体のジム・トーマス(Jim Thomas)氏は「ベンダー氏は世界最長の合成DNAに対する特許権の取得を主張しているが、長さがすべてではない。問題は『どれだけ長いか』ではなく『どれだけ優れているか』だ」と指摘する。

「合成生物学は研究室でも市場でも急速に進展しているが、社会的議論・規制の面では行き詰まりを見せている。さらに、安全で適切な合成生物学の統制方法については、有意義で包括的な議論はなされていない」

 ニューヨーク大学(New York University)のエカード・ウィマー(Eckard Wimmer)教授(分子生物学)は、ベンダー研究所はまだ人工生命を創造したとはいえないと語る。合成DNAが本当に適切に生物学的機能を果たすかについては不安が残ると指摘する。

 英GeneWatch UKの生物学者で広報担当のヘレン・ウォレス(Helen Wallace)氏も同様の不安を示している。ベンダー研究所が技術的快挙を成し遂げたとしても、「ベンダー氏は神ではなく、人工生命にはまだ遠い」と話す。

「この遺伝子工学により、より大規模な遺伝子変化が可能になるかもしれない。将来的には新たな遺伝子配列を持つ生命体を創造できる可能性はある」(ウォレス氏)

(c)AFP/Jean-Louis Santini