【1月16日 AFP】入院から約2週間、インドネシアのスハルト(Suharto)元大統領が重篤な状態にありながら驚くべき回復力を示していることで、神秘体験や迷信を信じる人が多い同国では、同氏の容体に関する奇抜な説の数々が飛び出している。

 道端のコーヒースタンドから高級レストランまで人々の話題は、86歳のスハルト氏がなぜ死を免れているのかで持ちきりだ。

■ジャワに伝わる魔力を宿しているとの説

 人々が最も多く口にしているのは、スハルト氏は出身地ジャワ(Java)島の多くの人たち同様、神秘的な力を信じており、同島で人が体の中に宿すといわれる魔力を手放さないからだという説だ。

 ジャワでjimatと呼ばれるこの魔力により、スハルト氏は32年間も独裁政権を維持することができたのだとうわさする人々は考えている。ジャワの言い伝えではこの魔力はさまざまな形をとるが、魂が逃れることのできるうちに体から出て行かなければならない。

 神秘主義者として有名なPermadi議員は「スハルト氏は危険や敵から身を守る魔力を探し出したのか、霊的な師から与えられていたのだろう」とAFPに語った。

■故スカルノ初代大統領の呪いの説

 同議員はインドネシアの初代大統領でスハルト氏によって実権を奪われた故スカルノ(Sukarno)氏の娘が率いる野党に所属しているが「スハルト氏は自分の業を受けている」と述べ、現在の状態はスカルノ氏に対する扱いの報いだという。

 故スカルノ氏は自宅軟禁されたまま、長く病気を患った末に1970年に亡くなったが、治療のための専門医も医療機器もまったく与えられなかった。スハルト氏は現在、インドネシア最高レベルの医師団に囲まれているが多臓器不全を起こしている。容体が再び悪化した15日、医師団は投与薬の分量を最高にまで引き上げた。

 Permadi議員は1月4日、スハルト氏が入院する数時間前に、東ジャワ(East Java)州の故スカルノ氏の墓所のそばで瞑想していたとき、故スカルノ氏の霊から「スハルト氏はもうすぐ病にかかるだろう。わたしが死ぬ前に苦しんだ病と同じ病で苦しむだろう」と「お告げ」を受けたともいう。

■自分がかけた呪いだと主張する呪術師も

 他方、呪術師として知られるKi Gendeng Pamungkas氏は、スハルト氏の健康状態に直接手を下したのは自分だと主張する。「独裁時代のさまざまな罪の報いとして、スハルト氏に呪いをかけてほしいという署名と2863通の手紙を受け取った。また生かさず殺さずの状態にしてほしいという要望も1417通受け取った」。

 Pamungkas氏は「プロフェッショナルとして」、それらの要望を聞き入れ、スハルト氏に「地球の火の花」の呪いをかけたため、現在スハルト氏は生死をさまよう状態にあるのだという。

 Pamungkas氏は2006年、同国を訪問したジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領に動物の血液を使った呪いをかける公開儀式を行い、メディアに大きく取り上げられたこともある。何事もなくブッシュ大統領が帰国の途についたとき、Pamungkas氏は人々に「辛抱するように」と呼び掛けた。

■独裁の犠牲者の許しを請えば「救われる」とも

 スハルト氏の「安らぎ」を願う呪術師もいる。やはり国内でよく知られるLimbad or Mbah Lim氏は13日の真夜中に合わせ、邸宅前で火を使う儀式を行った。同氏は「スハルト氏の心をとらえ続けるものが何かまだある。だから彼はまだ生きているのだ」という。

 前述のPamungkas氏は、スハルト氏の苦しみを和らげることができるのは、同氏の家族だという。「彼の家族が、特に子どもたちが、公の場でインドネシア国民に許しを請うことに気づけば、スハルト氏は今の状態から抜け出せるだろう。特に、父親の恐怖政治の直接的、間接的な犠牲者となった人々の許しを請うことだ」と述べた。

 Permadi議員はより現実的な考えを持っている。「彼を生かしているのは、あのたくさんの生命維持装置と投与され続けている薬。それらを止めてしまえば、彼は逝くだろう」(c)AFP/Bhimanto Suwastoyo