【12月12日 AFP】南京大虐殺から間もなく70年を迎えようとしている今、日中両国は関係改善に努めている。しかし、両国政府が相互和解を目指して設立した日中歴史共同研究の日本側座長を務める東京大学(University of Tokyo)法学部の北岡伸一(Shinichi Kitaoka)教授は、緊張が再び高まる危険性は大いにあると警告する。

 1937年12月13日、中国の当時の首都である南京(Nanjing)が陥落した翌日から数週間にわたり、日本軍は南京で虐殺行為と暴行を繰り返し、これがきっかけとなって両国間の関係は損なわれた。

 中国首脳陣は2007年という年について、南京大虐殺を含めさまざまな歴史的事柄が節目の年を迎えることから、日中両国にとって「微妙な年」になるだろうと警告していた。

 両国関係は2年前の2005年4月、ここ数十年間で最も危機的な状況を迎えた。何万人もの中国市民が、日本の偏狭な歴史観に対する抗議デモを展開。中には日本人の経営する商店や、日本領事館を襲撃する者もいた。

 貿易分野で強固な関係を築いている両国は2006年から、国際社会においてより大きな役割を果たすことを目指し、将来を見据えた協力関係の構築に向けて努力をつづけている。

 だがAFPの取材に応じた北岡教授は、次のように懸念を示している。「今は中国が歴史問題をロー・キー(控えめ)に抑えようとしている局面です。しかし、中国の一般国民の対日感情は以前として厳しいままです。私は逆に、抑圧されている反日感情がいつ爆発するかと心配になってきています」

■根強い反日感情、悪感情の連鎖

 9月に中国、日本、韓国の主要紙が共同で行った意識調査では、中国人の83%、韓国人の71%が日本に対して悪い印象を持っていると回答した。

 北岡氏は、「こうした厳しい対日感情は、日本人がまったく過去の戦争に関して謝っていないし反省もしていない、という誤解から生じている。しかし実際には、大部分の日本人が過去の戦争について申し訳ないと思っているし、首相も今までに何度も(過去の戦争について)謝っている」と強調した上で、問題は「日本人の一部に『南京事変は存在しなかった』と主張する人たちがいること」だと指摘した。

 さらに、そうした歴史修正主義者の主張はメディアで大々的に取り上げられるため、「中国の一般の人たちは、日本人が全然過去の侵略戦争について謝っていないと信じてしまう」ともいう。

 それと同時に、「戦後生まれの若い人たち」は「60年以上も前の自分たちに直接関係ないことについて批判されるのは不本意だ」と感じ、中国に対して批判的な見方をするようになる。北岡氏はこうした現象を、「悪感情の連鎖」と呼ぶ。

 日中歴史共同研究は、第二次世界大戦以前のその他の歴史的エピソードも議題にしており、2008年6月に研究成果をまとめ、発表する予定だ。

■「歴史認識に関する研究が必要」

 北岡教授は、2004年4月から2006年9月にかけ国連(UN)の次席大使を務めたことがきっかけで、歴史認識に関する研究の必要性を痛感するようになったという。

 ちょうど、日本政府が外交政策の最重要課題に掲げていた国連安全保障理事会(UN Security Council)の常任理事国入りが、小泉純一郎(Junichiro Koizumi)首相(当時)の度重なる靖国神社参拝に立腹した中国政府の動きにより阻まれたころである。

 北岡氏は小泉元首相の靖国参拝について、「(首相が)妥協するのではないかと思っていた」という。

 小泉氏の後任となった安倍晋三(Shinzo Abe)前首相は就任後、中国と韓国を歴訪し、両国との関係改善に努めた。

 しかし安倍氏も前年3月、いわゆる従軍慰安婦問題への日本軍の直接関与に疑問を呈し、大いに物議を醸す結果となった。

 安倍氏は閣僚らの度重なる不祥事により今年9月に辞任。日本政府に対し「謙虚に」過去を見つめるよう求める中国との関係改善をかねてから訴えてきた福田康夫(Yasuo Fukuda)氏が、次期首相に就任した。

 だが北岡教授は、両国間の誤解を解くのは容易ではないと指摘する。

 来年の発表を予定している共同研究報告に関して北岡氏は、1931-1945年の日本による満州支配について、日本と中国、それぞれの歴史研究家による見解と、それに対する相手側の反論を盛り込むことを明らかにした。北岡氏は「認識の違いを完全に埋められるとは思いません。しかし、こうした形で少しでも溝が埋まるのではないかと思っています」と語り、関係改善への期待をにじませた。

「政治家には、未来のことについて取り組んでほしい。過去のことをいくら言っても、歴史を変えることはできないのだから。歴史は歴史家の手に委ねるのがいいと思います」(c)AFP/Kyoko Hasegawa