【11月14日 AFP】昨今の「ママアスリート」の活躍により、出産はアスリートを引退に導くものではなく、逆に競技能力を向上させるのではないかとの見方が広がっている。

 1月に第1子を出産した英国のポーラ・ラドクリフ(Paula Radcliffe)は今月、ニューヨーク・シティマラソン2007(New York City Marathon 2007)で劇的な優勝を果たした。8月に行われた第11回世界陸上大阪大会(11th IAAF World Championships in Athletics Osaka)では、女子400メートルハードルでオーストラリアのヤナ・ローリンソン(Jana Rawlinson)が金メダルを獲得した。

 日本のアスリートの中でも、五輪で2度の優勝を誇る柔道の谷亮子(Ryoko Tani)が9月、第25回世界柔道選手権(25th World Judo Championship)の女子48キロ級で7度目の優勝を遂げ、「ママでも金」を達成した。

 3選手が声をそろえて言うのは、妊娠と家事の厳しさに耐えると、さらに自信がつき、出産前より強くなって、結果的にアスリートとして成長するということだ。ラドクリフは「(出産は)内面をより強くし、人間としてのバランスを高める。(ニューヨーク・シティマラソン優勝で)出産のために引退すると考えていた人たちに対し自分の存在をアピールすることができた」と語る。

 出産で胸がたるみ、骨盤が緩んだり、帝王切開で腹筋を損傷したりすると、健康面だけでなくバランス面でも、アスリートとして復帰するのはとても難しい挑戦だと専門家は指摘する。埼玉医科大学(Saitama Medical University)病院産婦人科の難波聡(Akira Namba)医師は授乳と並行して本格的なトレーニングを行うのは非常に厳しいと話す。

 しかし、近年のトレーニング技術や科学的知識の発達により、多くのアスリートが困難を克服しているという。難波医師は、プロのアスリートとは出産後も選手としての価値を失わないために、厳しいトレーニングにどう取り組むかを理解していて、できる限り早く復帰したいと思っている人だと言う。このようなアスリートが増加傾向にあるとも指摘している。

 ラドクリフが妊娠中もトレーニングを継続すると決断した際、一部では議論を呼んだが、無事、娘のイスラ(Isla)ちゃんを出産したことで、決断の正しさは立証された。ニューヨーク・シティマラソンで優勝したのは、そのわずか10か月後のことだった。

 英国のRoyal College of Obstetricians and GynaecologistsPatrick O'Brien医師は「妊娠、出産は非常に体に負担をかけるため、それを経験すると人は強くなる」と英国放送協会(BBC)に語った。

 難波医師によると、出産により男性ホルモンやその他のホルモンの分泌が促進され、運動能力が向上するとの仮説があるという。ただ、出産後の試験では、筋肉の強さなどの運動能力に顕著な向上は見られないという。ただ、心理的には新しい家族の誕生がアスリートの意識にプラスの効果を与える可能性はあると指摘する。

 新米ママとして新たな問題に直面する女性アスリートにとって、妊娠と家事だけが障害ではない。12月に出産したローリンソンは、出産以降、足筋損傷、親不知(おやしらず)の痛み、不眠など、ストレスと疲労による多くの障害を克服してきた。世界陸上大阪大会で優勝した後、ローリンソンは満面の笑みを浮かべて、「母親が強くなって帰ってくるというのは本当かもしれない。母親なら何でもできる」と語った。

 谷は9月の世界柔道の前に乳腺炎を患っていたが、母親になることで、身体的強さだけでなく、自信もついたと語る。また、授乳をやめてから、体がアスリートの体に戻り、出産でスタミナがついた気がするとも話している。(c)AFP/Shigemi Sato