【10月24日 AFP】韓国の金大中(キム・デジュン、Kim Dae-Jung)前大統領(81)が民主化運動指導者だった1973年、東京で拉致された「金大中事件」の再調査を行っていた韓国国家情報院(NIS)の過去事件真相究明委員会は24日、当時の情報機関・中央情報部(KCIA)の組織的な関与を認める報告書を発表した。同報告書では、朴正熙(パク・チョンヒ、Park Chung-Hee)元大統領が同事件を容認していたことも報告された。

 同事件への国家関与を、韓国の国家機関が認めたのは初めて。

 このほか、同報告書は1987年の大韓航空機爆破事件について「北朝鮮の工作員による犯行」と断定した。

 同調査は、韓国における「負の歴史」の清算に意欲を燃やす盧武鉉(ノ・ムヒョン、Roh Moo-Hyun)大統領の命により、3年間を費やして行われた。

■朴元大統領が少なくとも拉致計画を黙認

「金大中事件」は1973年8月、国家情報院の前身である中央情報部の要員らによって、都内のホテルから金氏が拉致された事件。同氏を船から海中に投げこみ殺害する計画だったが、米政府の圧力により実行は阻止された。その後、金氏はソウルで自宅軟禁下に置かれた。

 同事件については、民主化運動指導者として急激に支持を集めていた金氏の影響力を恐れた朴大統領の指示によるものか、李厚洛(イ・フラク、Lee Hu-Rak)KCIA部長が独自に指示したものかが謎とされてきた。

 全6巻3300ページにおよぶ報告書は、1980年ごろ、李KCIA部長が「朴大統領の命令に従うほかない」と語ったとする崔泳謹(チェ・ヤンクン、Choi Young-Keun)元議員の証言を掲載している。李部長はさらに拉致計画に反対する部下に対し、「わたし自身そのようなことにしたがっていると思うのか」とも述べ、指示系統の存在を示唆したという。

 報告書は「朴大統領が個人的に指示した可能性と平行し、最低限、暗黙に承認したことは間違いない」としている。

 真相究明委員会は、韓国政府が金大中氏の人権侵害および生命を脅かしたことについて、前大統領に公式に謝罪するよう同政府に求めた。

 金前大統領の広報担当官は、事件は朴大統領の支持によるものだと委員会がより明確に言明しなかった点を遺憾に思うと、談話を発表した。
 
 同日、韓国の柳明桓(ユ・ミョンファン、Yu Myung-hwan)駐日大使は外務省に木村仁(Hitoshi Kimura)外務副大臣を訪ね、発覚した内容について報告した。外務省側は、日本の主権を侵害する事件が起こったことに強い遺憾の意を表明した。

■大韓航空機爆破事件は北朝鮮機関の犯行と特定

 一方、同報告書は、1987年に乗員乗客115人を乗せた大韓航空機がミャンマー沖上空で爆破された事件について、北朝鮮工作員による時限爆弾装置によるものだとした。

 事件後、韓国当局に逮捕された2人の北朝鮮工作員のうち1人は自殺。残った金賢姫(キム・ヒョンヒ、Kim Hyun-Hee)元工作員の証言によると、翌1988年にソウル五輪を控えていた韓国を訪問することに外国人が脅威を感じるよう仕向けようとした北朝鮮政府の命令に基づいたとされる。(c)AFP/Park Chan-Kyong