【10月10日 AFP】フランス国民議会(下院)は9日、アラブ首長国連邦の首都アブダビ(Abu Dhabi)に予定しているルーブル(Louvre)美術館別館の建築に同意した。しかし左派勢力からは同美術館の価値を下げることになるとの反対意見も出ている。

 契約期間は30年間で、アブダビはルーブル美術館の名称使用料及び、展示品の半年から2年の賃貸料として4億ユーロ(約663億円)を支払う。

 これはフランスのその他の美術館とアブダビの100億ユーロにも上る大規模な契約の一部。ルーブル美術館別館完成は2012年を予定しており、オープンに合わせ、パリから多くの展示品が貸し出される予定だ。

 芸術の推進とはほとんど関係なく、安価な営利目的の事業だとして、左派勢力からは批判の声が上がっているにもかかわらず、フランス上院は9月、この計画を承認した。審議の過程で協力・開発・フランス語圏担当Jean-Marie Bockel副大臣は、「今回の協力関係は、我々の文化政策に必要な世界への開放性を素晴らしい方法で見せるものであり、自然遺産を貸したり売ったりするのではない。これは文化の多様性と文明の融合を推進するための挑戦なのだ」と述べていた。

 この計画は、本年3月、ジャック・シラク(Jacques Chirac)前大統領時代に進んでいたもので、左派は棄権したが、与党国民運動連合(Union for a Popular MovementUMP)を中心に支持を取り付けた。

 批評家からは、フランスの貴重なコレクションを貸し出すべきではない、パリを訪れる年間730万人の観光客が奪われてしまうだろうという声も上がっている。

 Catherine Tasca元文化・通信相は、「この契約は、我々の博物館政策の中で、懸念すべき転機となるだろう」と語った。

 反対派の主要人物のひとりで、パリのピカソ美術館(Picaso Museum)の元館長だったJean Clair氏は、アブダビのルーブル別館を認めることにより、「我々が知っているルーブル美術館の弔いの鐘の音」を聞くようになるだろうと語った。

 「我々は自分の魂を売り渡しているのではないか?」Clair氏がルモンド(Le Monde)紙に寄せたこの意見は、フランス文化界の主要人物5500人の署名を集めた嘆願書を出すきっかけとなった。

 別館が完成すれば直ちに約300点の作品が展示されるが、その後の10年間で250点から200点に削減される。政府高官らは、「モナ・リザ(Mona Lisa)」のような最高傑作を貸し出す予定はない、アブダビでの展示が危険と思われるものは貸し出しを控えることもできるとしている。

 フランス人建築家Jean Nouvel氏が設計した総面積2万4000平方メートルにも上る別館の着工は今年中に行われる予定。建築総費用は8300万ユーロ(約137億円)。(c)AFP