【10月4日 AFP】(一部更新)世界初の顔面移植手術を受けたフランス人女性、Isabelle Dinoireさん(40)の自身の体験を記した著書「Isabelle’s Kiss」が今週発売される。

 手術前、担当医から「2度とキスすることはできないかもしれない」と言われたというが、Dinoireさんは現在、食事や会話のほか、普通に笑顔が見せられるまで回復している。

■毎日キスの練習を

 同書はDinoireさんの談話とインタビューで構成され、2005年5月に飼い犬に顔をかまれて病院に担ぎ込まれた日から、2006年2月に記者会見で新しい顔を披露した日までがつづられている。

 著者は、手術後の4か月間Dinoireさんの看病にあたったNoelle Chateletさん。「Dinoireさんの勇気に心を打たれた。この試練を経て、彼女はより強い人間になった」とChateletさんは話している。

 移植手術を行った執刀医から、「口・鼻・あごの筋肉がキスをする時の形に動くようになったら、その時点で初めて移植が完成したことになる」と言われ、Dinoireさんは毎日キスの練習をしていたという。「今ではキスをするときとほぼ同じ形に口を動かせるようになっている」とChateletさんは同書に記している。

■手術後の喜びと苦悩

 「Isabelle’s Kiss」では、手術の裏話や、Dinoireさんが報道陣を逃れるために故郷バレンシエンヌ(Valenciennes)を去ってから、肉体的・精神的にどのように回復を遂げていったかが、初めて明らかにされている。

 「事故のあと、自分の顔を誰にも見られたくなかった。化け物のような顔だったわ」とDinoireさんは述べている。「特にひどかった部分は鼻。骨が露出していて、見るたびに、がい骨や死を連想した」

 そして2005年11月、Dinoireさんは世界初の顔面移植手術を受ける。口・鼻・あごは、自殺したフランス人のドナーから移植された。この手術で新たな人生のチャンスを与えられたDinoireさんは、「あの瞬間は決して忘れられない」と話す。

 その一方で、新しい「顔」との適合に悩み嫌悪感も抱いていたという。「口の中が全く別人のものになったということを受け入れるのが一番大変だった。なんだか柔らかくて、ぞっとしたわ」

 だが今ではドナーを自分の双子のかたわれだと考えており、手術直後には声を出して話しかけていたそうだ。以前は毛が生えていなかったあごに一本の毛を見つけたとき、こう思ったという。「彼女はわたしの中に生きていて、この毛は彼女のものなのだ」

 「鼻(my nose)がかゆい」と言ってから、これは自分の鼻ではなく別の人の鼻だったことを、ふと思い出すこともあったというが、こうしたことも「神経の感覚が戻った後はうまく受け入れられるようになった」と語っている。

 Dinoireさんは現在も多量の免疫抑制剤を服用しており、手術を行ったフランス北部のアミアン(Amiens)にある病院で、毎週検査と理学療法による治療を受けている。(c)AFP