【9月24日 AFP】(更新)堂々と天高くそびえ立つわけでもなければ、セコイアの樹木のように幹の巨大さを誇るわけでもない。それでも、カリフォルニアのインヨー国立森林公園(Inyo National Forest)のブリスルコーンパイン(Bristlecone Pine)は、長寿という一点において「樹木の王」の名にふさわしい。

 ふしくれだってねじれた姿で、カリフォルニア東部の山腹に散らばるように生えているブリスルコーンパインは、地球上に生存する最古の生物体だ。もっとも古いものは樹齢4700年にもなり、エジプト・ギザ(Giza)のピラミッドよりも昔から、標高3300メートルの高地に生息している。

■過酷な気候ゆえ備わった強靭さが長寿の秘密

 自然の脅威とも言うべきこの古木の長寿の理由の1つは、長年にわたり過酷な気候に耐えてきたからだ、と、37年にわたりブリスルコーンを研究してきた米国森林局(US Forest Service)のパティ・ウェルズ(Patti Wells)さんは語る。

 夏の気温は摂氏25度の心地よさだが、冬には最低マイナス30度の極寒が待ち受けている。風速約90メートルの風が吹き、深さ3メートルの雪に埋もれる。植物学者らは、これだけの極限状態を耐えることができるのはブリスルコーンだけだと指摘する。

 過酷な環境は、ユニークな構造を生み出した。ゆっくりと成長し、水分などを通さない不浸透性の高い樹脂を生み出すこの木は、害虫やキノコの害にあわない。さらに酸素の少ない高地に生えているため、山火事で致命的な損害を受ける危険もない。

 ブリスルコーンは、一目見るとあたかも死んでいるかのように見える。その理由は樹齢を重ねるにつれ、外側の樹皮の層は朽ち果て、残るのは根本から限られた数の枝へ直接伸びる剥き身の結合組織だけとなるため。「Pinus Longevae(長寿の松の意)」という学術名をもつブリスルコーンは、枯れ枝すら丈夫で、決して朽ち果てることはない。

■学術面でもさまざまに貢献

 樹齢数千年のブリスルコーンの古木の研究は、年輪学の発展にも大きく寄与してきた。年輪1本を1年と数える測定法はもっとも確実とされ、放射性元素炭素14測定法を再考する機会にもなった。

 こうした研究に基づく測定法の向上で、たとえば、全ての文明はメソポタミアから始まったとされる歴史学の定説が覆された。

■強靭な古木に迫る危険は「人害」

 過酷な自然に打ち勝って恐るべき長寿を誇ってきたブリスルコーンだが、インヨー国立森林公園の当局者は今、人間の手によってこの古木に危険が迫っていると感じている。

 この地を訪れる観光客の数は毎年6万人と比較的少ないが、公園当局者は「ブリスルコーンの林に関する広報活動はまったくしていない。ヨセミテ国立公園のようになってしまったら、人の手で木が傷つけられるかもしれない」と述べ、これ以上増えてほしくないと語った。

 この森林公園では1964年に、古木「Prometheus(プロメテウス、ギリシャ神話の神の名」が地質学者によって切り倒されるという悲劇が起こった。そのため、林の中で最古の樹木「Methuselah(メトセラ、旧約聖書の長寿の登場人物の名)」は樹齢が5000年に達するとも言われているが、保護のために生息場所は秘密にされている。(c)AFP/Tangi Quemener