【9月14日 AFP】(一部訂正)日本とロシアの長年にわたる懸案事項である北方領土問題が行き詰まるなか、第三の当事者としてアイヌ民族が声をあげた。北海道および北方領土の先住民であるアイヌが、北方領土問題で声をあげることによって民族の存在を改めて主張したい考えだ。

 アイヌ民族の社会的地位向上などを目的とする北海道ウタリ協会(Hokkaido Utari Association)の加藤忠(Tadashi Kato)理事長は、北方領土問題の対象となっている千島列島(Kuril islands)の先住民はアイヌであることを指摘。アイヌも北方領土交渉に加わる権利があると話す。「北方領土問題の日露交渉で、アイヌが鍵を握ることだってあり得る」

 同協会の佐藤幸雄(Yukio Sato)事務局長も、「北方領土の領有権を要求しているわけではないが、日露両政府が当事者のアイヌを交渉から除外しているのは不自然だ」と疑問を投げかけた。

 北海道の阿寒湖畔でアイヌの人権問題に取り組む秋辺日出男(Hideo Akibe)アイヌ工芸協同組合専務理事は、領土問題にアイヌを巻き込むことで日本が外交的に優位に立てることを日本政府に示したいという。そのためにはまず日本政府がアイヌを先住民として法的に認める必要があると秋辺氏は強調する。

 しかし、日本政府は、こうした主張に応える用意はないようだ。

 外務省は「北方領土問題はロシアと日本政府間で解決すべき問題」との立場をとっている。また、「アイヌ民族が北方領土の先住民である事実は認識しているが、『先住民』の定義が確立されておらず、アイヌ民族を北方領土の先住民と法的に認める根拠がない」との見解を示している。

 一方で、日露関係を専門とする木村汎(Hiroshi Kimura)北海道大学名誉教授はアイヌを交渉に参加させることは、領土問題で強固な態度をとり続けるロシアに対する有効な戦略になりうると語る。

 「たとえば、ロシアが日本に北方領土を返還するのが難しいというのであれば、日本にではなく先住民のアイヌ民族に返還するという形にして、ロシアの面子を保つという方法も考えられる」との見解を示したうえで、「現時点で、アイヌが領土問題交渉に直接参加することは考えにくいが、領土交渉においてアイヌが果たしうる役割を考えてみる価値はある」と述べた。

 第二次世界大戦末期、旧ソ連が北方領土4島に侵攻した際、アイヌを含む日本人は同島から追放された。一方、日本政府は一貫して、北方領土の領有権を主張し返還を要求している。

 領土問題が障壁となり、日露政府は戦後60年を経た現在も平和条約を締結していない。 

 現在、日本国内に居住する約7万人のアイヌは、「単一民族国家」観が根強い日本社会で民族固有の文化に対する無理解などに苦しんでいる。

 そうしたなか、北海道ウタリ協会事務局の佐藤幸雄事務局長は、2008年に北海道洞爺湖で開催される主要国(G8)首脳会議を「先進国の首脳にアイヌ民族をアピールする好機会」と期待する。「2008年をアイヌ民族の一大転換期とするべく、積極的に活動中」だという。

 このほかにも、国連(UN)での「先住民族の権利に関する宣言」採択に向け、アイヌ民族は世界各地の先住民と団結して活動を続けている。(c)AFP/Shingo Ito