【5月26日 AFP】北大西洋条約機構(North Altantic Treaty OrganisationNATO)のヤープ・デホープスヘッフェル(Jaap de Hoop Scheffer)事務総長は25日、NATO加盟国の1つであるエストニアで5月上旬から3週間以上にわたって続く、猛烈なサイバー攻撃に対し懸念を表明した。

■NATO加盟国すべてにとっての重大事

 ポルトガル領マデイラ(Madeira)島・フンシャル(Funchal)で行われたNATO加盟国議員の会合で、デホープスヘッフェル事務総長は、「サイバー攻撃が安全保障上の重大な問題であることは、疑いの余地がない。現在、エストニアに派遣されているNATOの専門化が、事態の収拾を進めている最中であり、今後の対策も検討している」と述べた。

 また、この事件は「NATOにも大きな関わりを持つ」と事の重大さを強調。「今後、政治問題となることが懸念される」とも語った。NATOはエストニアへ専門家を派遣したほか、米国も同国へのサイバー攻撃への対策を進めている。

 NATOの条約では、「加盟国1国への武力攻撃は、加盟国すべてへの攻撃」に当たると見なす。エストニアの政治専門家らは、この条項が今回の騒動、適用されるべきだとし、「NATOはサイバー攻撃への対応に協力する義務がある」と主張している。

■取りざたされるロシアの関与

 サイバー攻撃の対象となっているのは、ほとんどが政府機関のコンピューター・ネットワーク。エストニア政府は「一部の攻撃がクレムリン(Kremlin)を含むロシア政府のコンピューターから発せられた」と主張するが、ロシア政府はこれを否定している。

 NATOが東方への拡大を視野に入れ、米国がミサイル防衛システムを欧州に配備する動きを見せるなかで発生したこの事件は、欧州連合(EU)とロシアの間で、新たに緊張を高める要因となっている。

 欧州連合の加盟国でもあるエストニアの人口は135万人。同国は1991年に旧ソ連から独立を果たし、パイオニア的IT国となった。

■発端は旧ソ連兵士の銅像の撤去

 一連のサイバー攻撃はエストニア政府が4月27日に、首都タリン(Tallinn)中心部に建てられていた旧ソ連兵士の銅像を撤去したことが発端とみられる。

 多くのエストニア国民にとってこの銅像は、第2次世界大戦後、50年にわたって続いた旧ソ連による支配を思い起こさせるものであった。

 しかし、ロシア政府とエストニア国内のロシア系住民は、ナチス・ドイツとの闘いで命を落とした旧ソ連兵をたたえ、第2次大世界戦勝利を記念したこの銅像の撤去は、「銃後に倒れた兵士への侮辱だ」と激しく反発した。(c)AFP