【5月25日 AFP】第60回カンヌ国際映画祭(60th Cannes Film Festival)コンペティション部門の出品作品である、アニメーション映画『ペルセポリス(Persepolis)』に対し、イラン政府が抗議を表明している。この抗議に対し、作品を手がけたマルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)監督は、「イラン政府が言っていることは見当違い。自分が今後イランに戻ることはない」とコメント。同監督は、イラン出身だが現在フランスで暮らしている。


■作品は「政治的ではなく普遍的なもの」

 同作品はイラン出身の漫画家、マルジャン・サトラピ(Marjane Satrapi)が自身のベストセラー作品をもとに制作したアニメ映画。70-80年代のイランで宗教的抑圧と闘いながら成長する少女の姿をユーモラスに描いた自伝的作品。今年度のパルムドール(Palme d’Or)に最も近い作品とされている。

 同監督はAFPのインタビューに応じ、「これは政治的な作品ではない。世界中の国で起きたさまざまな出来事をもとに、普遍的なテーマを描いたものだ」と語っている。

 一方、イラン政府はこうした説明を受け入れず、23日、フランス外務省に対し、「この映画が出品作に選ばれたのは、映画祭主催側に政治的偏見があったためだ」と非難した。

 これに対し外務省報道官は「作品の選考を行った映画祭主催事務局に、政府当局とのつながりはない。同作品は、あくまでも芸術的な理由により選ばれた」と述べた。

 サトラピ監督は、「作品では、1人の人間の人生を描くことで、愛と平和を訴えている。これを見た人は、戦争や革命を経験したいと思わないだろう」と、さらに反論している。

■作品に込められたもう一つのメッセージ

 同作品の上映時間は1時間17分。1978年、イランで反王制勢力が暴動を起こし、その後シャー(パーレビ2世(Pahlavi Ⅱ))の国外追放と共に政権崩壊までの状況が、8歳の少女の目を通じて描かれている。

 さらに、長期にわたって続いたイラン・イラク戦争の影響、イスラム風紀委員の行い、国を出るときの辛さなどサトラピの人生を10年以上にわたって描く。

 監督によると、作品中最も重要なシーンは、化粧をした主人公の少女が「道徳警察」に逮捕されるのを恐れ、近くにいた無実の男性を指さして「嫌がらせを受けた」と訴える場面だという。

 「作品の中で最も最悪な行為を取るのは、革命の支持者ではなく私自身。つまり作品は、自分に忠実でなかった私を描くことで、ヒューマニズムとは何かを示している。もはや、ヒューマニズムという言葉の力や意義は失われてしまったと思うが、今こそこの言葉が最も必要とされている時なのでは」とサトラピ監督。

 同監督は、祖国に戻る気はないのかという質問に対し、「戻るつもりはない。現在のイランは、理不尽な法を押しつけられた国だから」と答えた。