【ワシントンD.C./米国 25日 AFP】(訂正)国民らの注目を集めている米軍関係者2人が24日、政府改革委員会(House Government Reform Committee)の公聴会に出席し「軍当局がまったくのうその情報を広め、英雄を渇望する国民のために情報操作をした」との証言を行った。

 同日証言を行った1人目は、ケビン・ティルマン(Kevin Tillman)さん。3年前にアフガニスタンで「味方の誤射」により死亡したNFLの元スター選手、パット・ティルマン(Pat Tillman)さんの弟で、公聴会では「軍の失態をさらす情報の公開を避け、アブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所で発生した不祥事から国民の目をそらす目的で、米軍は兄の死因をめぐってうその情報を流した」と語った。

■「女性版ランボー」としてメディアの注目を浴びたリンチさん

 そしてもう1人は、2003年前半にイラクで敵側に拘束され、9日後に米軍に救出されたとしてメディアの注目を浴びた元女性兵士のジェシカ・リンチ(Jessica Lynch)さんだ。リンチさんは「拘束間際に弾丸が残り1発になるまで抵抗した『女性版ランボー(Rambo)』」としてメディアに取り上げられたが、「戦場から伝えられた誤った情報」をめぐる公聴会に臨んだリンチさんは、自身に関する誤った描写を非難して次のように語った。
「その報道は真実ではない。なぜ軍当局がうそをついて私を英雄に仕立て上げたのか、いまだに分からない」

 当時19歳だったリンチさんは、イラクのナシリア(Nasiriyah)を走行中に携行式ロケット弾による攻撃を受け、同行していた11人の米軍兵が死亡した。そして、イラク人医師が攻撃で負傷したリンチさんの治療にあたったという。

 リンチさんは「米国ではわたしの勇敢な行いを讃える報道がなされた。ウェストバージニア(West Virginia)州のWirt Countyにある実家には報道陣が押し寄せ『戦地に赴いたウェストバージニア州出身の女性版ランボー』をめぐる報道が繰り返された」と語る。

 だが、この報道は真実ではなかった。襲撃を受けた際、リンチさんは銃を発射しておらず、車両に乗っていただけだというのだ。真実を語った理由についてリンチさんは「政治的な動機によるものではない。何が起こったのか真実を伝えるべきだと感じた」と説明する。さらにリンチさんは「戦争における真実は単純ではない。常に真実が語られるべきだ。米国民は、英雄のあるべき姿を判断する能力を持っており、念入りに作り上げられたうそなど必要ない」と続けた。

■パット・ティルマンさんの弟による証言

 一方、公聴会に臨んだケビン・ティルマンさんは「兄が死亡した時の状況について親族らは当初、軍当局から『2004年4月22日に幅の狭い峡谷付近で発生した激しい銃撃戦で敵に頭部を撃たれ死亡した』との説明を受け、これを信じていた」と述べた。だが数週間後、パットさんが熱心すぎる同小隊所属の兵士の誤射により死亡したことが明らかになり、親族らはショックを受けると同時に裏切られた気持ちになったという。兄が仲間の兵士により殺害されたことについてティルマンさんは「これは戦争の不透明さによるものではない。単に軍が統制力を失っただけだ」と語り「兄は間違いなく味方によって殺害されたのだ。ちょっとした嫌がらせが発生した後に小隊内の数人が不注意な行動をとった結果だ」と続けた。

 ケビンさんは、2001年9月11日に発生した同時多発テロの後に兄パットさんとともにレンジャー部隊へ入隊した。アリゾナ・カーディナルス(Arizona Cardinals)のディフェンシブバックとして活躍していたパットさんは、360万ドル(約4億3000万円)もの契約更改を退け、同部隊へ入隊した。

 兄と同じ部隊に配属されたケビンさんも、レンジャー部隊入隊のために、将来を約束されたプロバスケットボール選手としてのキャリアを捨てている。

 パットさんの死後1か月以上もの間、軍当局は遺族に向けて「パットさんは敵対勢力との戦闘で死亡した」との説明を繰り返しており、全国放送された追悼式でも、軍がこのような説明をする場面が見られた。

 公聴会でケビンさんは「軍当局は、米軍に不利な事件が相次ぐ中で兄が味方の兵士によって殺害されたとの事実を公開すれば、状況がさらに悪化することを懸念した。また、真実を知れば国民もこの残酷な事実を受け入れがたいと考えただろう。イラク戦争への支持を弱体化させることを懸念した軍当局は感動的な物語を作り上げ、イラクやアフガニスタンで展開される戦争に対する支持を集めようとした」と語った。ケビンさんはまた、軍当局の「意図的で綿密に計画された虚偽の陳述」を非難し、「軍の説明は完全な作り話だった」と述べた。ケビンさんによれば、パットさんの死後数時間以内に、軍服、装備、ノートといった決定的な証拠となり得る物品が処分され、規則で義務付けられている検死解剖も実施されず、野戦病院による報告書は改ざんされたのだという。

 国防総省(Pentagon)は3月、ティルマンさん死亡事件の取り扱いをめぐり中将1人と陸軍士官8人の処分を要求した。

 下院民主党議員で公聴会メンバーのHenry Waxman氏は「世間を騒がせる作り話をした」として政府を非難し「公聴会がこれらの誤りを正すきっかけとなることを望む」と語った。

 同氏は「われわれの自由のために勇敢に戦う兵士らのために唯一できることは真実を伝えること」と述べた。

 写真は24日、公聴会で証言に聞き入るジェシカ・リンチさん。(c)AFP/Karen BLEIER