【ワシントン/米国 28日 AFP】「コーヒーカップを片手に新聞を広げてリラックス」といった風景は、今後数年の間に過去のものとなりそうだ。メディア専門家らは、ビデオやデジタル技術が印刷メディアに取って代わる日は近い、と予告している。

 メディア分析を専門とする米シンクタンクIfocosAndrew Nachison所長は、「ブロードバンド・デジタル・ネットワークやワイヤレス・ネットワークの普及が進むことは間違いない」と言う。技術の進展により、ポッドキャストやビデオ・メッセージ、デジタル・ブックやブログ、インターネットへの接続が、ワイヤレス通信や携帯電話のビデオ配信を使って可能になる。
「デジタル通信が我々の文化にとって空気のような存在になるのは明らか。ビデオを撮る人が爆発的に増えている。もうすぐ、どこを見てもビデオだらけになる時代が来るだろう」

 すでにいくつかの研究では、米国で新聞の読者数が減少し、一方でインターネット利用者が確実に増加していることが報告されている。ワシントンのヒュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)の最新の調査では、米国人の43%がニュースはインターネットで知る、としており、新聞を基本にしている人は全体の17%にとどまった。

 ワシントンのアメリカン大学コミュニケーション学科のエイミー・アイスマン(Amy Eisman)学科長は、将来「ニュースを手のひらで見る」ことも可能になるだろうと言う。
「ビデオからインターネット、オーディオ、エンターテインメントと、ますます色々なものを携帯機器で楽しめるようになっている。また、ワイヤレスのブロードバンド接続も全世界に広がっていくだろう。情報伝達は文字ベースから映像ベースに変わるでしょう」

 IfocosのNachison所長もこれに同意する。さらに技術的変化により、単独の機器ですべての情報処理を集約できるようになるだろうと言う。
「電話、ビデオ撮影、GPS、個人の通信ツールなどはすでに一体化している。10年後にはもっと一体化が進むだろう」

 やはり情報伝達においてビデオが圧倒的な媒体となり、インターネットや携帯電話のオンデマンド方式で、映像をダウンロードできるようになると予言する。
「誰もがいつでもビデオを撮影するようになる。ビデオ撮影が特別なことでなくなり、Eメールやタイプをするように当たり前のことになるでしょう。携帯電話の着信表示も文字ではなくビデオになる」

 こうした変化を背景に、専門家らは新聞が過去の遺物となる日もそう遠くはない、と推測する。例えば2006年、米国内の新聞社の編集室では1万8000人分の職が削減された。前年2005年の9453件に比べ、削減件数は88%の増加だ。

 ヒュー・リサーチ・センター内でジャーナリズムを調査・報道する部門、「Project for Excellence in Journalism(優秀なジャーナリズム・プロジェクト)」の代表者、トム・ローゼンスティール氏は「神媒体は死に絶えつつある」と言う。同プロジェクトでは毎年、アメリカのメディア状況に関する年次報告書を発表している。
「10年後、15年後に新聞が印刷されているかどうか分からない」

 2月にIfocosが開催したメディア会議「We Media」では専門家らが口々に、将来は携帯可能なより小型化された読み込み装置からメディアへのアクセスができるようになると予測した。装置は軽量で薄く、新聞のように丸めることさえできるが、デジタルである点だけが異なるだろうとの見解も出た。

 経済界の前線では、広告の大幅な変化も予測されている。新聞広告に比べて、インターネット上の広告には「うまみ」がない、と思われるからだ。「現在、ネット広告による収入は、新聞広告で得られる収益の30%しかない。新聞広告で読者から1ドルを取っているとすれば、同じ読者がネットの読者になった場合、30セントしか取れない計算だ」とローゼンスティール氏は述べる。インターネットへのアクセス料やケーブル料を値上げし、採算を相殺することを期待するしかない、と言う。

 IfocosのNachison所長は、「報道各社の規模は著しく縮小するだろう。収益は減少し、ジャーナリズム業界にとって収支問題が課題となってくるだろう」。

 写真は、ニューヨークタイムズの本社ビル(2006年11月29日撮影)。(c)AFP/Getty Images Stephen Chernin