【11月18日 AFP】アフリカ西部マリの女性歌手、ファディマータ・ワレット・ウマル(Fadimata Walett Oumar)さんは、同国北部の砂漠都市トンブクトゥ(Timbuktu)で1月に音楽フェスティバルに出演したとき、それからわずか2週間後に騒乱が起き、マリを去ることになろうとは予想もしていなかった。

 ウマルさんがリードボーカルをつとめる音楽グループ、「タルティット(Tartit)」はトンブクトゥ出身のマリ人10人が集まって1995年に結成された。これまで米国、カナダ、ブラジル、欧州、東アジアなど世界各地で演奏し、遊牧民トゥアレグ(Tuareg)人の伝統音楽を披露してきた。

 だが、今年初めの騒乱で、トンブクトゥを含む同国北部はイスラム過激派に制圧された。

「それで私たちはマリから追い出されることになったんです」と、ウマルさんはモロッコのサハラ(Sahara)砂漠にあるTaragalteでAFPに語った。マリのイスラム過激派が歌うことを禁じても、タルティットの音楽はすでに世界中に広まっていると、ウマルさんは自信を示す。

 タルティットはTaragalteで開催中の音楽フェスティバルにメインアクトとして参加している。このフェスティバルはトンブクトゥに捧げられたものだ。「この音楽フェスティバルに参加できて嬉しく誇りに思うし、とても力づけられる。けれど(トンブクトゥの)故郷や家族、自分の人生を思うと悲しくもなる」(ウマルさん)

 トンブクトゥでの1月の音楽フェスティバルの後、タルティットのメンバーはマリの首都バマコ(Bamako)に移動した。だがバマコで反トゥアレグ・デモが発生し、グループのメンバーたちは皆、2月の始めまでにマリ国外に逃れ、ブルキナファソやモーリタニアなどへ散り散りになった。

 その後、マリでは3月に発生した軍事クーデターに乗じ、反政府勢力が北部に拡大。北部は最終的に国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)と連携するイスラム系勢力に制圧された。

 バマコでは民族間対立による暴動が激化し、家屋や商店は焼かれ、ウマルさんの夫のいとこも殺害されたという。

「全てのマリの人たちが皆、同じマリ人なのだと認め合って、文化の違いを考えに入れながら共に生きてほしい。そうして何百年も暮らしてきたのだから」とウマルさんは訴える。

 マリではイスラムの教義を厳格に課すシャリア(イスラム法)が導入されている。音楽は禁じられ、女性にはベールの着用が強要され、イスラム神秘主義スーフィー(Sufi)の寺院は破壊されている。ウマルさんを含め、多くのマリの人々は、これはマリ文化に著しく背くものだと批判する。

「私たちマリ人の文化は音楽と強くつながっているのです。マリの文化は喜びの文化であり、家の中に閉じこもるような文化ではありません」と話すウマルさん。歌うことは人類共通の権利だと訴える。「トゥアレグ人にとって、歌うことは癒しでもあるのです。夜になれば皆で集まって歌う。これに代わるものなどありません」

 マリを逃れてからも、タルティットはポーランドやモーリタニアで演奏している。だが、メンバーが各地に分散した状態で、故郷トンブクトゥに帰ることも、再びそこで演奏がかなう日も今のところは見えていない。(c)AFP/Simon Martelli