【1月30日 AFP】(一部更新、写真追加)反政府デモが続いているエジプトで30日、首都カイロ(Cairo)の北西にあるワディ・ナトゥルン(Wadi Natrun)刑務所の刑務官が持ち場を放棄し、この刑務所で身柄を拘束されていた穏健派イスラム原理主義組織ムスリム同胞団(Muslim Brothers)の34人が妨害を受けることなく刑務所を出た。ムスリム同胞団側の弁護士の1人が同日明らかにした。

 ムスリム同胞団の幹部を含む34人は27日、自宅やホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)大統領の辞任を求めるデモへの参加中に拘束されていた。

■脱獄相次ぐ

 この刑務所には多数の政治犯も収監されていた。治安関係者がAFPに語ったところによると、29日夜から30日朝にかけて数千人の受刑者がこの刑務所の刑務官たちを圧倒し、近くの町や村に散っていたという。弁護士は、ムスリム同胞団のメンバーが刑務所にとどまっていれば生命が危険にさらされていただろうと語った。

 刑務所を出たムスリム同胞団の1人はカタールの衛星テレビ局アルジャジーラ(Al-Jazeera)に対し、地元の住民たちがドアを開けてくれたので外に出たのであって、自分たちから脱獄したのではないと話し、「われわれは元気だ」と述べた。

 このほかイスラム武装組織のメンバーが多数収監されて拷問を受けたとされるトーラ(Tora)刑務所からは銃声が聞こえ、銃剣を付けた銃を持った兵士らが刑務所に次々と入って行った。軍は刑務所周辺の道路を封鎖し、兵員輸送車に装備された機関銃を空に向けて発砲して一般市民を近づけないようにしている。

■ハマスのメンバーも刑務所を出る

 またカイロの北東にあるアブザーバル(Abu Zaabal)刑務所では暴動が発生し、治安関係筋によると少なくとも8人の受刑者が死亡し、刑務所周辺で数十人の遺体が見つかった。この刑務所では29日夜から30日朝にかけて激しい銃声が聞こえ、混乱に乗じて多くの受刑者が脱獄したという。

 アブザーバル刑務所に入っていたイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)のメンバー8人も脱獄し、少なくとも2人は30日、密輸用のトンネルを通ってパレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)に戻った。ハマスによると、残りの6人も30日中にガザ地区に到着する見込みだという。

 カイロの南西にあるファイユム(Fayum)でも29日、治安部隊と収容者が衝突して警察官1人が死亡し、この騒ぎに乗じて数十人が脱走した。この他にも国内の他地域でも比較的小規模の刑務所で脱獄が起きている模様だが、詳細は明らかになっていない。

■略奪発生、自警団を組織する動きも

 政府は軍に治安維持のため介入するよう命じたものの、暴徒化した反政府デモが警察の手に負えなくなった地域の治安は極めて悪化している。略奪も起きており、エジプトの一部の地域では市民の間で自警団を組織する動きも出始めている。

 エジプトの首都カイロ、北部のアレクサンドリア(Alexandria)、北東部のスエズ(Suez)で夜間外出禁止令が出されている。軍は29日から通りのパトロールを始め、略奪者を取り締まっている。(c)AFP