【1月17日 AFP】パレスチナ自治区のイスマイル・ハーブさん(36)は多くのパレスチナ人同様、ヨルダン川西岸(West Bank)の丘陵に立ち並ぶユダヤ人入植地を嫌っているが、毎朝夜明け前から、その入植地建設で職にありつこうとするパレスチナ人労働者数百人の列に加わる。

 かれらは冷え切った早朝3時から、入植地4か所の外にあるイスラエル軍の検問所前に集まる。パレスチナ自治区内に作られたユダヤ人入植地で、イスラエル人のための住宅を作ることに気持ちの葛藤はある。しかし入植地でならば職がある。

 マフムード・アッバス(Mahmud Abbas)パレスチナ自治政府議長は、ユダヤ人入植地こそ中東和平最大の障害だとし、入植地建設が完全に凍結されない限り、イスラエルとの交渉再開はないと拒んできた。

■賃金は倍以上の差

 しかし、パレスチナ人労働者数千人が頼っているのは、入植地での仕事だというのが現実だ。同じような仕事でも、入植地ならば西岸の自治区に比べて賃金は倍以上だ。ハーブさんは言う。「こんな思いで並ぶこと自体、屈辱だ。パレスチナ側で同じだけ稼げる仕事があれば、毎日こんなところには絶対に来ない」

 大工仕事を探すライド・ラビさん(26)も「ここに来ている労働者のほとんどは屈辱感でいっぱいだと思う。けれどほかに仕事の選択肢はない」と言う。「分離壁建設で働くパレスチナ人を、みんな非難はするよ。けど労働者たちが『じゃあほかに仕事はあるのか』と聞けば、誰も何も言えなくなる」

 東エルサレムを含むヨルダン川西岸に散らばる100以上の入植地には、イスラエル人50万人近くが住む。93年のオスロ合意以降、入植者の数は倍以上に増えた。パレスチナ側は入植地の拡大が続けば、独立国家パレスチナの樹立が困難になると危惧している。

 米国による圧力の末、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は去る11月、新たな入植地建設を10か月凍結することに合意したが、東エルサレムやすでに進行している公共プロジェクトはその対象から外された。

 イスラエルによる入植地への出入り許可を失うことを恐れ、またパレスチナ自治政府と対立することを恐れ、労働者たちの多くは入植地で働く理由を語りたがらない。

■イスラエル側での労働許可は激減

 国際通貨基金(IMF)によると、2000年の第2次インティファーダ(アルアクサ・インティファーダ、Al-Aqsa Intifada)までは、イスラエル領内や入植地で働くパレスチナ人は約14万6000人いた。しかし、現在イスラエル軍が出入り許可を与えているのは4万5000人にとどまると言う。

 そのうえ、パレスチナ人は入植地で働くのに月75ドル(約7000円)を支払わねばならない。「治安上の理由」によって検問所で追い返されもする。その理由について説明されることはない。

 それでも自治政府が支配している地域の建築現場では20ドル(約1800円)程度にしかならない日当が、入植地では50~75ドル(約4500~7000円)になる。

 パレスチナのAhmad Majdalani雇用担当相は、「パレスチナの失業率は過去例をみない高さだ。イスラエルによる封鎖と分離壁で制限されているからだ」と嘆く。

 列に並んでいた8人の子の父、シャリフ・サニナさん(43)は言う。「この状況じゃ、嫌な仕事だってやるしかない。家族に食わせたいから、できることなら何でもやるさ」(c)AFP/Hossam Ezzedine